観光・製造・水産まで:日中緊張が日本経済に及ぼす影響
日中対立再燃が小売株を直撃、訪日消費を懸念-自動車への波及も警戒 - Bloomberg
台湾問題を巡る高市早苗首相の発言をきっかけとした日中関係悪化の出口が見えない中、日本株市場で小売株から撤退する動きが広がっている。
2025年11月、日本政府関係者の台湾に関する発言を受け、中国政府が自国民に対し日本への渡航や留学を控えるよう呼びかけました。この発表直後、日本の株式市場では百貨店、化粧品、航空会社などの銘柄が急落。
背景には「将来の売上減少リスク」への不安があり、観光業だけでなく、地域経済や製造業にも影響が及ぶ可能性が指摘されています。さらに、中国が日本産水産物の輸入手続きを事実上停止したことも明らかになり、政治の動きが私たちの日常生活にまで波及する構図が浮かび上がっています。
「将来の不安」が市場を動かす
2025年11月、中国政府が日本への渡航自粛を求めた翌日、資生堂や三越伊勢丹ホールディングスなどの株価が一時12%下落しました。株価は「今の利益」だけではなく、「今後の売上や市場環境」の見通しによって大きく変動します。投資家はニュースを通じて将来の需要を予測し、リスクが高まると判断すれば株を売ります。その売りが集中すると、株価は一気に下がります。
こうした反応は今回に限りません。2012年の尖閣諸島国有化問題や、2023年の処理水放出をめぐる対立でも、観光需要の低下や不買運動が発生し、関連企業の株価が下落しました。投資家はこれら過去の事例を踏まえ、「今回も同様の影響が出る可能性がある」と判断し、売り注文が広がったと考えられます。
観光だけではない「2兆円規模」の影響
中国からの訪日観光客は、消費額の大きさから日本のインバウンド消費の中心を担っています。年間の観光消費額は約2兆円と推計され、今回の渡航自粛によって1.7〜2.2兆円の経済損失が生じる可能性があると専門機関が発表しています。
影響は観光関連産業だけにとどまりません。ホテル、百貨店、飲食、免税店の売上減はもちろん、食材を卸す農家や土産物メーカーなど、地域の中小企業にも波及します。福岡・沖縄など中国からの来訪者が多い地域では、予約キャンセルが連鎖的に発生し、すでに売上減少の兆候が報じられています。
さらに、中国政府は11月19日、日本産水産物の輸入手続きを事実上停止。これにより、日本の漁業にとって大きな市場が一時的に閉ざされ、観光と並んで食品産業にも影響が広がっています。政治的な対立が複数の産業に影響する構造が改めて浮き彫りになりました。
レアアースと供給網の脆さ
影響はサービス業に限りません。スマートフォンや自動車を製造する際に必要な「レアアース」などの鉱物の多くは中国が主要供給国です。もし対立が深まり、輸出規制が強化されれば、日本の製造業で部品不足が生じ、生産に遅れが出る可能性があります。
自動車業界ではすでに警戒が高まっており、中国の輸出規制に関する政府との協議も行われています。経済はサプライチェーン(供給網)でつながっており、一つの地域の政治的緊張が世界中の生産体制に影響することを示しています。
過去の外交摩擦との比較
今回の状況は過去の事例と類似しています。2012年の尖閣諸島問題では、中国政府が日本への旅行を控えるよう呼びかけ、多数の訪日ツアーが中止されました。訪日中国人数は2012年の約83万人から翌年70万人へ減少。観光に加え、日本車の販売低迷や不買運動など、複数の産業が影響を受けました。
ただし、一定の冷却期間を経て観光需要は回復していきました。経済面のメリットを重視し、民間交流が再び活発になったためです。2025年も円安の影響で日本旅行の割安感が強く、個人旅行客は政治状況と切り離して戻る可能性がある、と専門家は指摘しています。

今後の見通しと日本の対応
短期的には、観光・小売業を中心に打撃が続くと見られています。両国の立場が強く主張されているため、数週間から数ヶ月単位では厳しい状況が続く可能性があります。
一方で、長期的には「リスク分散」が重要視されています。日本企業や自治体は特定の地域や国に依存せず、東南アジア、欧米、韓国など多様な国からの訪日客誘致を進めたり、部品の調達先を増やしたりする取り組みを強化しています。
2025年時点では欧米からの訪日客が増加しているという調査も発表されており、観光市場の多様化が進む可能性があります。
まとめ
- 株価は将来への期待と不安で大きく動く
- 中国人観光客の減少は最大2兆円規模の影響
- 水産物輸出停止や製造業の供給網にもリスクが及ぶ
- 過去の外交摩擦では時間をかけて回復した事例がある
- 観光・製造業ともにリスク分散が重要な課題となっている
今回のニュースは、政治と経済がどれほど密接につながっているかを知る良い機会です。次のテーマを家族で考えてみてください。
- 家の中にある“Made in China”の製品を調べてみよう。
- 観光客が減ると地域の商店や働く人たちにどんな影響があるか想像してみよう。
- 「お小遣いが急に半分になったらどうする?」と置き換えて考えてみよう。
- 部品や資源を一つの国に頼ることのリスクは何か? どう分散できる?
- 旅行を控えるよう言われても、行きたい人はどう判断するのか? 国ごとの価値観の違いを考えてみよう。
こうした問いを通して、ニュースを自分の生活とつなげながら理解を深めてみてください。

