スマホ注文×LINE連携は本当に便利? 店の狙いと客のモヤモヤ
飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 - ITmedia Mobile
飲食店でスマホを使って注文をする機会が増えているが、「客のリソースにただ乗りしないでほしい」という声が挙がっている。LINEを使ったスマホオーダーにも否定的な意見が多い。テーブルのQRコードを読み取って、初めてLINE連携が必要だと分かった店舗もあった。
飲食店でテーブルのQRコードをスマホで読み取り、注文する――。すっかりお馴染みになったこの「スマホオーダー(モバイルオーダー)」ですが、一部の店舗で導入されている「LINE連携必須」の仕組みに対し、利用者から「便利さ以上の負担を感じる」という声が上がっているのです。
店舗側はなぜ、注文にLINEを使わせたいのでしょうか。そこには、人手不足やコスト削減といった課題を乗り越えるための「データ戦略」が隠されています。一方で、利用者は「注文したいだけなのに、なぜ個人情報を提供し、友だちにならなければいけないのか」という根本的な疑問を抱えています。
スマホオーダーをめぐる店舗のメリットと利用者の不満、デジタル時代の新しい「おもてなし」と「顧客との関係」のあり方を考えてみましょう。
店がLINEを使う理由
店舗がLINE連携型のスマホオーダーを導入する最大の理由は、「業務効率化」と「顧客データの活用」を同時に実現できる点にあります 。
まず、注文・会計業務が劇的に効率化されます 。客がスマホで注文した内容は、直接キッチンのプリンターやタブレットに送信されるため、スタッフが注文を聞きに行く手間や、オーダーの聞き間違いがなくなります 。POSレジと連携させれば会計もスムーズになり、特に人手不足が深刻な飲食業界にとって、人件費の削減とサービス品質の維持につながるのです 。
さらに重要なのが、LINEを通じたマーケティングへの活用です 。一度LINEで友だち登録してもらえれば、店舗は顧客の来店回数や注文履歴といった貴重なデータを取得できます 。ダイニーのようなサービスでは、これらのデータをもとに「常連客だけに特別なクーポンを送る」「特定の商品を頼んだ人に新メニューをおすすめする」といった、一人ひとりに合わせたアプローチが可能になります 。
これは、顧客一人ひとりと長期的な関係を築き、生涯にわたって得られる利益(LTV:Life Time Value)を最大化しようという戦略なのです。自社でアプリを開発するよりも低コストで導入できる点も、店舗にとっては大きな魅力となっています 。
客が抱える負担と不満
店舗側のメリットの一方で、利用者側はさまざまな「見えないコスト」を負担させられていると感じています。その不満は大きく3つに分けられます 。
- 「友だち登録」そのものへの心理的な抵抗感
LINEを家族や友人とのプライベートな連絡手段として使っている人にとって、一度しか行かないかもしれない飲食店の公式アカウントがリストに並ぶことに違和感を覚えます 。注文後にブロックや削除をする手間も、利用者にとっては負担です 。 - 個人情報提供への不安
「注文」という目的のために、自分のLINEアカウント情報(名前やプロフィール画像、場合によっては電話番号など)が店舗側に渡ることに、多くの人が懸念を抱いています 。さらに、登録後に一方的に送られてくるキャンペーン情報やクーポンは、利用者にとっては「求めていない情報」であり、迷惑だと感じるケースも少なくありません 。 - 客自身の資源(リソース)を使っているという不公平感
スマホオーダーは、客自身のスマートフォンの通信量(ギガ)とバッテリーを消費します 。Wi-Fi環境が整備されていない店舗も多く、「なぜ店の業務の一部を、客の負担で手伝わなければならないのか」という根本的な疑問が「客のリソースにただ乗りしている」との批判につながっています 。

匿名注文とのちがい
すべてのスマホオーダーがLINE連携を必須としているわけではありません。リクルートの「Airレジ オーダー」のように、QRコードを読み取るだけでLINE登録などを必要とせず、匿名で注文できるサービスも存在します 。
こちらは利用者にとって心理的負担が少ない一方、店舗側は顧客データを活用した継続的なマーケティングがしにくいという側面があります。
つまり、店舗側は「データ活用によるリピーター獲得(LINE連携型)」を取るか、「手軽さによる顧客満足度(匿名型)」を優先するかの選択を迫られているのです。
この選択は、企業が顧客とどのような関係を築きたいのか、という経営哲学そのものを映し出しています。一方的に情報を送るだけの関係ではなく、利用者が「友だちになってよかった」と思えるような価値を提供できるか。あるいは、注文の選択肢(口頭注文など)を残し、利用者の多様性を受け入れるか。デジタル化が進むほど、こうした企業姿勢が問われるようになります。
まとめ
- 店舗は効率化とデータ活用のためLINEオーダーを導入
- LINE連携で顧客情報を得てリピーター促進につなげられる
- 利用者は友だち登録や個人情報提供に心理的負担を感じる
- 宣伝メッセージや客自身の通信量負担にも不満が生まれる
- LINE不要の匿名型オーダーは客の負担が少ない選択肢
- 企業には顧客との関係性をどう築くかという姿勢が問われる
今回のテーマは、私たちの日々の消費行動の裏側にある「企業戦略」と「個人の負担」を考えるきっかけになります。
もしあなたが飲食店の経営者なら、LINE連携型と匿名型のどちらを選びますか? その理由は何でしょう。また、LINE登録を求める代わりに、利用者にどんなメリット(例:割引、特別な一品)を提供すれば、双方が納得できる関係を築けるでしょうか。
デジタルサービスが当たり前になった今、私たちは単なる「消費者」から、サービスを動かす一部を担う「協力者」へと役割が変わりつつあるのかもしれません。その変化の中で、自分にとって心地よい距離感や、納得できるルールのあり方を探していく視点が、これからの社会を豊かに生きる上で大切になります。

