アスクル売上95%減の衝撃!ランサムウェア攻撃がECと物流に与えた影響
アスクル株式会社のプレスリリース(2025年12月3日 11時00分)サービスの復旧状況について(ランサムウェア攻撃によるシステム障害関連・第 12 報)
オフィス用品通販大手のアスクルが、約1カ月半にわたるサイバー攻撃の混乱を乗り越え、ネット注文を再開しました。 しかし、その裏で同社の11月度の売上高は前年同月比で約95%も減少しました。
この数字は、ECサイトというデジタルな事業がいかに物理的な「モノの流れ」と一体であり、一度のシステム障害がいかに甚大な経済的ダメージをもたらすかを物語っています。近年、日本の物流を支える企業で同様の被害が相次いでおり、私たちの生活や社会を支える「当たり前」がいかに脆弱な基盤の上にあるかを突きつけています。
この一連の事件から、私たちは何を学び、どう備えるべきなのでしょうか。
「売上95%減」が示す経済へのダメージ
まず、アスクルに何が起きたのかを数字で確認しましょう。2025年10月19日に発覚したシステム障害により、同社の11月度(10月21日〜11月20日)の単体売上高は、前年の約348億円から約17億円へと、95.1%も減少しました。 原因は、「外部からの不正アクセスによるランサムウェア(身代金要求型ウイルス)感染」と公表されていますが、2025年12月5日現在、具体的な侵入経路や手口の詳細は調査中であり、明らかにされていません。
この影響は売上減だけに留まりません。アスクルは12月15日に予定していた決算発表の延期も決定しました。 これは、システムの復旧費用、売上減少による機会損失、顧客への補償、外部専門家への調査依頼費用など、被害の全容と金額を確定するのに時間がかかることを示唆しています。 サイバー攻撃は、単なるITトラブルではなく、企業の財務状況を根底から揺るがす重大な経営リスクであることがわかります。

業績・財務ハイライトより
1社の被害では終わらない「サプライチェーン」のリスク
さらに深刻なのは、被害がアスクル1社で完結しない点です。現代のビジネスは「サプライチェーン(供給網)」、つまり原材料の調達から製造、在庫管理、配送、販売までが複雑に連携して成り立っています。アスクルのECプラットフォームや物流網は、無印良品やロフトといった他社のネット通販事業も支えていました。 そのため、アスクルのシステム停止は、これらの提携企業の販売機会をも奪う結果につながったのです。
こうした物流インフラを狙う攻撃は、アスクルが初めてではありません。
例えば、国際物流大手の近鉄エクスプレスは2025年4月にランサムウェア攻撃を受け、国内外の貨物輸送が広範囲で停止し、大きな混乱を招きました。 また、化学品輸送に特化したNRS社も2025年5月に不正アクセスで倉庫管理システムが止まり、取引先35社以上に影響が及んだと報告されています。
ECの物流支援を手掛ける関通では、2024年の攻撃被害額が約17億円に上ったと公表されており、1社のセキュリティ問題が社会全体の機能不全に直結する危険性を示しています。
私たちの「当たり前」を支えるインフラとこれからの対策
これらの事件が示すのは、ネット通販や物流システムが、もはや単なる民間サービスではなく、電気や水道と同じ「社会インフラ」としての側面を持つという事実です。アスクルが扱うオフィス用品や医療・介護用品が届かなければ、企業活動だけでなく、病院や学校の運営にも支障が出ます。
政府もこの問題を重視し、経済産業省などが「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を公表し、経営者が主導して対策に取り組むよう促しています。 しかし、ガイドラインの存在だけでは攻撃を防ぎきれていないのが現状です。 今後は、自社だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体でセキュリティ水準を高めていく「サプライチェーン・セキュリティ」の考え方が不可欠になります。
消費者や利用者の立場からは、「価格」や「利便性」だけでなく、「安定してサービスを継続できるか」という企業の「事業継続力」も、サービスを選ぶ上での新たな判断基準になるかもしれません。それは、企業の競争環境にも変化をもたらす可能性があります。

まとめ
- アスクルはサイバー攻撃で受注・出荷が停止し、11月度売上高が約95%減少
- 原因はランサムウェア感染だが、具体的な侵入経路は公表されておらず調査中
- 被害は提携企業にも及び、1社の問題がサプライチェーン全体に波及するリスクが露呈
- 近鉄エクスプレス、NRS、関通など、物流企業の基幹システムを狙った攻撃が近年多発
- 企業には自社だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体でのセキュリティ対策が求められている
今回のアスクルの事例では、「注文ボタンを押すだけ」に見えるネット通販の裏側で、どれほど多くのシステムとデータが動いているかが改めて可視化されました。 受注・在庫・配送などがすべてデジタルでつながったサプライチェーンは、便利で効率的である一方、サイバー攻撃によって一気に止まる可能性があることも、具体的な数字とともに示されています。
あなたがよく利用するネットスーパーやフードデリバリー、好きなアパレルブランドのECサイトは、どのような仕組みで注文を受け、商品を届けているのでしょうか。その裏側にある「情報の流れ」と「モノの流れ」を想像し、もしその一部が止まったら、自分の生活や社会にどんな影響があるかを考えてみてください。
サイバー攻撃という「見えない脅威」に対し、社会全体でどのように向き合っていくべきか。今回の事件は、その本質的な議論の必要性を私たちに教えてくれています。

