3割の利益を生む不動産事業を手放す理由:サッポロは「ビールに集中」を選ぶ

サッポロ、KKR・PAGに不動産子会社を売却 取引価格4770億円 | ロイター

サッポロホールディングスは24日、不動産事業を担うサッポロ不動産開発に投資ファンドのKKRやPAGが出資すると発表した。来年6月に51%を出資し、サッポロ不動産開発は連結子会社から外れる。取引価格は4770億円。

日本のビール大手サッポロホールディングス(以下、サッポロHD)は、不動産子会社のサッポロ不動産開発を投資ファンド連合(KKR・PAG)へ売却し、あわせて社名を「サッポロビール」へ変更する方針を公表しました。
対象となる不動産事業は、東京・恵比寿ガーデンプレイスなどの大型資産を抱え、グループ全体の事業利益のおよそ3割を生み出してきた収益源です。

それでもサッポロHDは、取引価値4,770億円という規模で不動産を手放し、その資金を酒類事業の成長投資と株主還元に振り向ける計画を示しました。日本のビール市場では、アサヒ・キリン・サントリー・サッポロの4社が競い合っています。その中でサッポロHDは、どんな立ち位置にあり、なぜ今回の決断に至ったのでしょうか。

まずはクイズで考えてみよう(正解は問題をクリック)

Q. 日本のビール市場で、一般に「4大ビールメーカー」とされる企業の組み合わせとして正しいものはどれでしょうか。

A. アサヒ・キリン・サントリー・サッポロ
B. アサヒ・キリン・サントリー・オリオン
C. アサヒ・キリン・オリオン・ヤッホーブルーイング

→正解は「A. アサヒ・キリン・サントリー・サッポロ」です。
日本のビール市場は、アサヒグループホールディングス、キリンホールディングス、サントリーホールディングス、サッポロホールディングスの4社が大きなシェアを占めています。
この4社の中で、サッポロHDは売上・利益規模ともに最も小さく、国内シェアでも4位とされています。

4大ビールメーカーの中でのサッポロの位置

日本のビール市場は、4大メーカーが複数のブランドを展開しながら競争する構造です。調査会社などの分析では、アサヒとキリンが大きなシェアを持ち、続いてサントリー、サッポロという順で位置づけられています。
「サッポロは4社の中で一番小さい中で、使えるお金と人をどこに集めるかが重要」ということです。

規模感を比較(直近の開示資料にもとづく)

会社売上高(連結)利益
サントリーHD3兆4,179億円3,289億円
キリンHD2兆3,384億円2,010億円
アサヒGHD1兆8,417億円2,690億円
サッポロHD5,308億円約220億円

この規模差があると、例えば次のような差が出やすくなります。

  • 広告や販促に回せるお金
  • 海外展開やM&A(会社の買収)に使える資金
  • 工場や物流の改善に投資できる量
不動産が支えてきたサッポロHDの収益構造

サッポロHDは、酒類、食品飲料、不動産など複数の事業を展開する持株会社です。2024年12月期の連結ベースでは、売上高の構成比は酒類が約73%、食品飲料が約22%、不動産は約4%とされています。

ここで重要なのは、売上の割合と、利益の割合が同じではない点です。不動産は売上では小さく見えても、利益では大きな役割を持っていました。

「売上の割合」と「利益の割合」がずれる例

事業売上の割合(目安)利益(コア営業利益)利益の比重(目安)
酒類約73%約188億円約6割
食品飲料約22%約34億円約1割
不動産約4%約78億円約3割

不動産事業には、恵比寿ガーデンプレイス、GINZA PLACE、サッポロガーデンパークなどが含まれていました。今回の取引後も、恵比寿ガーデンプレイスなど一部資産はサッポロHD側に残し、ブランド発信や体験拠点として活用を続ける方針が示されています。

なぜ不動産を4,770億円で売却するのか

サッポロHDは2025年12月、不動産子会社サッポロ不動産開発について、KKRとPAGが出資する企業連合と売却契約を結びました。取引価値は借入金を含め4,770億円で、2026年から2029年にかけて段階的に株式を譲渡する計画です。

この取引により、サッポロHDは約3,300億円の売却益を見込んでいます。同社は、この資金を次のように使うと説明しています。

お金の使い道

目的金額の目安
成長投資約3,000〜4,000億円酒類のM&A、海外展開、RTD強化など
株主還元約1,000億円配当など
財務強化(一部)借入金返済など

背景には、筆頭株主であるアクティビストファンド「3Dインベストメント・パートナーズ」からの提言もありました。同ファンドは、不動産事業が利益を大きく支えていることで酒類事業の課題が見えにくくなり、資本効率の改善が遅れていると指摘してきました。

なぜ、利益の約3割を稼いでいた不動産を手放すのか。
それは、限られた資本を競争の主戦場(酒類)に集め、将来の成長と収益力を高めるためです。

ビール市場の成長余地は?

ビール市場を世界と日本に分けて見ると、「量の伸びは鈍いが、分野によっては成長余地がある」という共通点が見えてきます。

  • 世界
    市場規模は金額ベースで成長すると予測される一方、消費量の伸びは小さいとされます。プレミアムビールなど高価格帯への移行が、市場規模を押し上げる要因と分析されています。
  • 日本
    国税庁の統計では、ビールの課税数量が長期的に減少し、発泡酒やRTDへ需要が移ってきました。さらに、酒税は段階的に改正され、2026年にビール系飲料の税率が一本化される予定です。

一方、ノンアルコール・低アルコールビール市場や、プレミアムビール、クラフトビールといった高価格帯の分野は、比較的高い成長率が見込まれています。サッポロHDは、不動産売却で得た資金を、こうした分野を含む酒類事業の強化に投じる方針を示しています。

まとめ
  • 日本のビール市場はアサヒ・キリン・サントリー・サッポロの4社が中心
  • サッポロHDは4社の中で売上・利益規模が最も小さい
  • 不動産事業は売上比率が小さい一方、利益の約3割を稼いでいた
  • サッポロHDは不動産事業を4,770億円で売却し、約3,300億円の売却益を見込む
  • 売却資金は酒類の成長投資と株主還元、財務強化に充てる計画
  • ビールは数量が伸びにくい一方、プレミアムやノンアル、RTDなどに成長余地がある

「不動産」という安定した資産を手放してでも、サッポロHDはなぜ本業に集中する道を選んだのでしょうか。
それは、企業が“選択と集中”で長期的な価値を築こうとするからです。

あなたの周りでも、学校や地域で「一番得意なことに集中する」姿勢を見たことがあるはずです。企業も同じで、限られた人材とお金をどこに投じるかが、経営の成否を分けます。
もしあなたが企業経営者なら、安定収益を生む事業を残しますか?それとも、将来の成長を狙ってリスクを取りますか?
サッポロの決断は、経営の教科書にも載る「現代の岐路」といえるかもしれません。