Temu・SHEINを巡る規制強化:安さと成長の経済的な限界
中国発の格安通販アプリ「Temu(ティームー)」やファストファッション通販「SHEIN(シーイン)」は、日本を含む多くの国で利用者を増やしてきました。価格の安さや配送の早さが注目される一方で、各国の政府や規制当局が調査や是正を求める動きも広がっています。
中国ではTemuを傘下に持つPDDホールディングスに対する大規模な調査が報じられ、アメリカやEUでも知的財産や消費者保護の観点から問題提起が続いています。
なぜ、これほど多くの国が同じ企業やサービスに目を向けているのでしょうか。安さや成長だけでは説明できない「ルール」の存在が、背景にあるようです。その仕組みを整理する前に、まずはニュースの核心となる数字から考えてみましょう。
まずはクイズで考えてみよう
Q. 今回、中国当局がPDDホールディングス(Temu親会社)へ大規模な調査団を送る「直接のきっかけ」になったとされる出来事は、次のうちどれでしょうか?
A. サーバーのデータ消失
B. 従業員によるストライキ
C. 職員との「殴り合い」
→ 正解は C. 職員との「殴り合い」 です。
報道によると、上海本社へ検査に入った当局職員とPDD側の従業員との間で、口論から身体的な衝突(殴り合い)に発展したとされています。この異例のトラブルを機に、当局は100人規模の調査チームを派遣し、物流や税務の不正疑惑に対する徹底的な調査に乗り出しました。
中国で進むPDDへの調査とは
2025年末、中国・上海にあるPDDホールディングス本社で、当局(国の監督や取り締まりを行う役所)の検査官と従業員との間に衝突があったと報じられました。これをきっかけに、国家市場監督管理総局や国家税務総局などが参加する特別調査チームが編成され、100人以上の調査官が派遣されたと伝えられています。
報道で対象とされている主な論点は、次の点です。
- 配送をめぐる不正の疑い(実態と異なる配送表示など)
- 税務に関する手続きや申告の問題
これらはいずれも、プラットフォーム事業の信頼性に直結する項目とされています。
実際に、PDD傘下で中国向けEC「拼多多」を運営する子会社は、税務情報の提出遅延を理由に10万元(約210万円・1元=約21円換算)の罰金処分を受けています。金額そのものは企業規模から見れば大きくありませんが、当局が事業の運営体制を細かく確認している点が注目されています。
アメリカとEUが注目する別の論点
中国国内の調査と並行して、海外でもTemuやSHEINをめぐる動きが続いています。主な地域ごとの論点を整理すると、次のようになります。
| 地域 | 注目されている点 |
|---|---|
| アメリカ | 知的財産権侵害、強制労働や危険商品の疑い |
| EU | 値引き表示や画面設計など消費者保護の問題 |
| ドイツ | 出品者価格への関与が競争を制限していないか |
アメリカでは2025年12月、上院議員が司法省と国土安全保障省に対し、両社の知的財産侵害や強制労働の疑いについて調査を求める書簡を送りました。州レベルでも、危険な物質を含む商品が流通していないかなどを調べる動きが報じられています。
EUでは、消費者保護の観点からSHEINの表示や販売手法が問題視されました。値引きの見せ方や、購入を急がせる画面設計が、利用者に誤解を与える可能性があると指摘されています。さらにドイツでは、Temuが出品者の価格設定にどこまで関与しているかについて、競争法の観点から調査が始まりました。
成長する売上と増えるコスト
一方で、PDDホールディングスの業績を見ると、売上高は拡大を続けています。2025年4〜6月期の売上高は前年同期比7%増の1,039.8億元(約144億5,000万ドル・1ドル=約7.2元換算)と報じられました。7〜9月期も前年同期比9%増とされ、利用者拡大の勢いが続いていることが分かります。
ただし、利益面では変動も見られます。背景として報じられているのは、次のようなコスト要因です。
- 国際物流や配送網の維持費
- 決済システムやサーバー運用費
- 利用者獲得のための広告・マーケティング費用
これらの支出が、短期的な収益性に影響を与えています。物流や決済、広告などへの投資がかさみ、営業利益や純利益が前年を下回る時期もありました。安さを保ちながら世界展開を進めるには、コストと収益のバランスが常に問われる状況にあります。

「安い」だけではダメ?
なぜ、売上が伸び、利用者が多いにもかかわらず、各国で調査や是正の動きが続くのでしょうか。それは、価格の低さだけでなく、次のような経済の基本ルールが関わっているからです。
- デザインやブランドなど知的財産の保護
- 働く人の労働環境
- 商品の安全性
- 市場での公平な競争条件
- 税の負担と制度の順守
これらは市場が長く機能するために欠かせない要素でもあります。これらは市場が長く機能するために欠かせない要素でもあります。
2026年初めの報道によると、中国では複数の規制当局が合同でPDDの事業運営を調査しています。アメリカやEUでも、消費者保護や競争政策の枠組みの中で、TemuやSHEINへの是正要求が進められています。こうした事実は、低価格モデルが各国の制度とどのように調整されるかが重要な課題になっていることを示しています。
まとめ
- 中国当局はPDDに対し100人以上の調査官を派遣し事業運営を調査
- 税務情報の提出遅延を理由に子会社が罰金処分を受けた
- アメリカでは知的財産や労働問題をめぐる調査要請が出ている
- EUは消費者保護と競争の観点から是正を求めている
- 売上は拡大する一方でコスト増が利益を圧迫している
通販サイトやアプリを利用するとき、私たちはつい価格や便利さに目を向けがちです。しかし、その裏側でどのようなルールが守られているかは、ニュースを通じて初めて意識する人も多いでしょう。知的財産や労働環境、競争の公平性は、企業だけでなく社会全体に影響します。
もし将来、あなたがサービスを提供する側になったとき、どのルールを重視すれば信頼を得られるでしょうか。また、消費者として、どこまでの情報を知った上で選択したいでしょうか。今回のニュースをきっかけに、価格の先にある経済の仕組みに目を向けてみてください。

