円がもはや安全資産じゃない? イラン戦争でも円安が進む理由

2026年3月、中東で軍事衝突が広がり、原油価格と為替市場が大きく動きました。
こうした緊張が高まる場面では、昔は「有事の円買い」といって、円が買われやすいと説明されることが少なくありませんでした。ところが今回は、円が強くなるどころか、対ドルで弱い動きが目立ちました

では、なぜ同じように不安が高まる局面でも、円高になる時と円安になる時があるのでしょうか。カギになるのは、金利、エネルギー輸入、貿易の動き、そして円が「安全資産」としてどこまで信頼されているかです。仕組みを整理すると、ニュースの見え方が変わってきます。

Q. 「有事でも円安が進んだ」例として適切なのはどれでしょうか。

A. 2011年 東日本大震災直後
B. 2022年 ロシアのウクライナ侵攻後の原油高局面
C. 2016年 ブレグジット決定直後
D. 2008年 リーマンショック直後

→正解は「B. 2022年 ロシアのウクライナ侵攻後の原油高局面」です。

2022年にロシアがウクライナへ侵攻し、原油価格が急騰しました。この局面で円は対ドルで1ドル=110円台から150円台まで円安が進みました。
背景には、日本がエネルギー輸入国であることに加え、日米の金利差が拡大していたことがあります。

つまり、「有事=円高」とは限らず、金利差や原油価格の動きが為替に強く影響することが確認された事例です。

この視点をもとに、2026年の中東情勢下での円安も整理していきます。

円高・円安を決める3つのポイント

円高とは、1ドルを買うのに必要な円が少なくなることです。為替の動きを考えるときは、次の3つが大切です。

  • 金利差
    日本の金利が上がり、米国の金利が下がる方向なら、円を持つ魅力が高まりやすくなります。
  • 貿易とエネルギー価格
    日本は原油の9割超を中東から輸入しています。原油高は輸入額の増加につながり、円売り圧力になりやすい構造があります。
  • 安全資産としての評価
    円は長く安全資産の代表格とされてきましたが、その性格は以前ほど自動的ではなくなっています。

この3つのバランスで、円高にも円安にも動きます。

1年間のドル円チャート
SBI証券より
なぜ今回は「有事の円買い」になりにくかったのか

原油高
今回の中東危機では、3月1日時点では円が一時的に買われる場面もありました。しかし、その後は原油高の影響が前面に出て、円は対ドルで弱含みました。
ユーロや円が「エネルギー高に弱い通貨」として売られ、ドルは安全資産としても買われました。日本は輸入に頼るため、原油高が家計や企業コストを押し上げやすく、為替市場でも不利に働きやすいのです。

日米の金利差
さらに、円の弱さには低金利も関係します。日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%へ引き上げましたが、なお国際的には低い水準です。3月の会合でも日銀が据え置く見通しと見られており、金利差の面ではなおドルが選ばれやすい状況でした。
アメリカでは戦争と原油高がインフレを押し上げる懸念があり、連邦準備制度理事会(Fed)もすぐには利下げしにくいと見られていました。こうなると、「円を売って高金利通貨を買う」動きが残りやすくなります。

「安全資産の円」ではなくなった?

円は、2008年の世界金融危機や2011年の東日本大震災の時期などに安全資産として買われやすい通貨とみなされてきました。国際通貨基金(IMF)や経済産業研究所(RIETI)の研究でも、円には安全資産としての性格が確認されています。

ところがReutersは2026年3月、「円の安全資産としての輝きは弱まりつつある」と報じました。背景としては、次のような変化があります。

  • 日本の貿易黒字が小さくなった
  • 原発停止後にエネルギー輸入が増えた
  • 中国などとの競争で輸出の構造も変わった

つまり、今の円は「世界が不安だから自動的に買われる通貨」ではなく、条件によって買われ方が変わる通貨になりつつあるのです。

数字で見る今回の円安

今回の状況を整理すると、次のようになります。

要因今回の方向
原油価格上昇
日本の輸入負担増加
日米金利差米国優位
安全資産需要ドルへ集中

このように、原油高+金利差+ドル需要という組み合わせが、今回の円安につながりました。

まとめ
  • 円高は円の価値が上がること
  • 金利差は為替を大きく動かす
  • 原油高は日本に不利になりやすい
  • 円は今も安全資産だが条件つき
  • 中東危機ではドル買いが強まった
  • ニュースは貿易と金利も合わせて見る

為替ニュースを見るときは、「円が上がったか下がったか」だけで終わらせず、その背後にある条件を3つに分けて考えると理解が深まります。まず、日米の金利差はどうなっているか。次に、原油や天然ガスなど輸入価格は上がっているか。そして、投資家は本当に円を安全資産として選んでいるのか。

同じ「世界が不安」というニュースでも、昔と今では円の反応が違うことがあります。これから先、円高が起きる場面は、どんな条件がそろった時だと思いますか。原油価格、日銀の政策、米国の利下げ予定などを見比べながら、自分なりの答えを探してみてください。