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グレーヴァ先生まず、私が高校生によく話している内容をご紹介させていただきますね。

私がミクロ経済学で感動したお話です。講義の最初に「消費者」という言葉が登場します。
当時18歳の女の子であった私も一国のお偉いさんも、すべて同じ「消費者」として現れます。立場も年齢も関係なく、全員が経済学の中で平等に扱われていて、それを知ったとき、すごく感動したのです。

グレーヴァ先生そうです。経済学って、ある意味、理想を教えている学問なのです。すべての人は平等で、一生懸命考えて暮らしましょう、とか。感情に流されず、真面目に取り組んで生きていきましょう、とか。そんな風に。

グレーヴァ先生本当にそう思いました。経済学の中に「私」が入っているということが新鮮でした。私が買い物をすることも経済学の分析対象になるっていうのが、なんだかとても温かいと感じたのです。

グレーヴァ先生はい。いい学問だなって思いましたね。中学生や高校生の皆さまにもそういうことを感じてもらえたら嬉しいです。とても平等で、開かれた学問だと思います。

他にも最近感じたことがあって、特にミクロ経済学は、「命令して解決しようとしない」ということです。問題を解決するときも、誰かが「やりなさい」って命令するのではく、「仕組みを工夫して、うまく解決しましょう」という考え方なのです。

グレーヴァ先生まさに!命令ではなく、自分たちで考えて調整することで、解決に導く。とても素晴らしいことだと思います。戦後の民主主義の影響で、こうした学問が育ったのかもしれませんね。

気分の良い学問」って感じがします。私は今も経済学を学び続けていて幸せです。

グレーヴァ先生もちろんです。私もミスをするし、学生もミスをする。それでいい。私も君たちも一緒に学んでいる、という雰囲気ができています。

慶応では先生を「さん」付けで呼ぶ文化があったり、同僚の先生を「君」付けで呼ぶ伝統があったりして、ちょっと面白いです。たとえば、昔、紙で休講の案内を出すときも、普通なら「◯◯先生 休講」って書くところが、「◯◯君 休講」って書いてあったりして(笑)

グレーヴァ先生はい、女性の先生も「◯◯君」って書かれます。慶応には、平等性や合理性の文化がしっかり根づいています。そういう点が両立していて、とても心地よい環境です。

グレーヴァ先生そうです。たとえば、私が先生に間違いを指摘しても、全然怒られませんでした。そういう環境で育ってきたから、私も自然と「指摘されるのは当然」という考えで教えています。

権威主義が一切ないのは、慶応の中にいる人間としては楽しいです。だから、こんなおばさんでも(笑)、堂々と意見を出して暮らしていける。そういう場だと思っています。

多くの人は経済学を「身の回りのお金の話」ばかりで考えてしまいがちですけど、本当は「誰もが等しく参加者である」という平等の視点が大事だと考えます。

グレーヴァ先生特に自信のない18歳の女の子が、慶応という巨大な大学に入って得られたことは数知れません。私は神奈川県の端っこから来たのですが、日吉(慶応のキャンパス)に行って、全国から男の子が集まっていて、怖そうな先生もいた。でも、「この中にあなたがいますよ」って、学問の中で受け入れてもらえる。それはやっぱり、社会科学の良さじゃないですかね。

グレーヴァ先生はい。ゼミでもあまり命令はしないようにしています。「今日は何章やるから」と伝えるだけで、予習は自由です。順番だけ当てておいて、学生自身にプレゼンしてもらうのです。

グレーヴァ先生そうです。みんなには「○」と「?」が書いてある2種類のカードを持ってもらい、わかったら「○」ちょっとわからなかったら「?」って出してもらいます。それを見ながら、みんなの理解度を確認しながら、学生がプレゼンをすることになっています。

グレーヴァ先生まさにそうですね。一方的な講義は基本的にしません。常にインターアクション(対話型)です。楽しいです。ただし、いつも頭を回転させなきゃいけない(笑)でも、それが楽しいです。

グレーヴァ先生そうですか。やっぱり大学って、いい場所です。会社だと、やっぱりもっと難しいですよね。儲けなきゃいけないし、結果も出さなきゃいけないし。慶応で教えることができて幸せです。学生は基礎力があるから、教える側もやりやすいです。