④ 経済学を学ぶ醍醐味

経済学は理系的要素が多くあると思うのですが、文系に分類されがちですね。
グレーヴァ先生:おっしゃる通りです。たまたま今日中国の方と話していたのですが、中国でも経済学は文系と捉えられているそうで、世界的にそう見られがちのようですね。でも実際は、経済の本を読む人、経済の歴史を学ぶ人、私のように応用数学者みたいな人もいるわけです。学問の幅が広すぎて、なかなか一言で説明しにくいのが経済学です。
経済学者側の努力も足りないのかもしれませんね。「文系の学問」ってイメージが根強すぎて、他の側面が伝わってないと感じています。

子どもたちにとっても経済学は将来とても役に立つのですが、それがわかるのは大人になってからというケースがほとんどではないでしょうか。
グレーヴァ先生:まさにその通りです。「あのときのあれか!」って思う瞬間が、後からやってきますよね。私は高校で出前授業もしていますが、高校では実際にTシャツの仮想取引のようなワークをしています。売り手は原価を書いたカードをもらい、買い手は予算を書いたカードをもらって、交渉で価格を決めていく。そういう中で、交渉の大切さとか、経済の基本を体験的に学んでもらっています。
最近はお金を実際に使わない子も多いですし、親に全部買ってもらっている子も多い。だからこそ金銭教育が大事ですし、経済学には本当に多様な視点があるということも伝えていきたいです。

教授のご専門のゲーム理論は特に相手の立場を想定して準備する力が鍛えられますよね。
グレーヴァ先生:ええ、ゲーム理論というと難しそうですが、プレゼンテーションもまさにゲーム理論の応用です。自分が理解するだけではなく、相手がどう受け取るかを想定して準備する。それがゲーム理論的な思考です。

「理論」という言葉のイメージが硬くて、子どもは敬遠しそうですね。
グレーヴァ先生:物理の理論ならロケットも飛ぶし尊敬されますけど、経済の理論はただ難しそうだと思われがちですね。でも、トランプ政権の関税政策や年金問題のように経済学は日常に深く関わっていて、知っておくと判断力が格段に上がります。

お金のことだけではなく、社会の問題をどう考えるかという視点が大事だと思います。私も最初は社会問題を解決する学問として経済学に興味を持ちました。
あと、法学部と経済学部は多少思考が似ていると思っています。法学は法律の力で社会を良くしようとする学問ですよね。経済学も、それとは別のやり方で、やはり社会を良くしていこうと考える学問です。お金儲けのための学問ではないし、サラリーマンになるための学部ではないです。

教授のもとで学ぶ学生さんたちは、経済学を志して来られた方が多いのでしょうか。
グレーヴァ先生:うーん、いろいろです。全員が最初から経済学をやりたいっていうわけではなくて。「親に勧められたから」とか「たまたま受かった」っていう子もいます。ただ、必ず「経済学を学びたくてここに来ました」っていう子もいて。そういう子はやっぱり嬉しいです。

最近はデータ系の分野に興味を持つ学生も多いですよね。
グレーヴァ先生:そうですね。データサイエンスに行く学生もすごく多いですし、そういう子は私のゼミではなく、別のところに行くことが多いです。でもその一方で、数理的な理論経済学に関心がある子もいて、そういう学生が来てくれると、まだ興味を持ってくれる人はいるのだと安心します。

理論経済学に興味を持つきっかけとしてはどんなことがあるのでしょうか。
グレーヴァ先生:高校時代に物理や数学が好きだったということは大きいですね。実際、そういうきっかけで来る学生もいますし、私自身もそうでした。ですから、論理的分野とは自然と関心事がつながってくるのでしょうね。