ラクスルが株式非公開化:2025年はTOB・MBOラッシュだが「上場をやめる理由」とは?

2025年は、日本企業のニュースで「TOB(株式公開買付け)」「MBO(経営陣が参加する買収)」という言葉を聞く機会が増えました。
ラクスルの約1,200億円規模のMBOをはじめ、レジルやカオナビなど、上場していた企業が株式を市場で売買できない形(非公開化)に切り替える事例が続きました。上場は「成長のゴール」と言われがちですが、2025年は「上場をやめる」ことが、経営の選択肢としてはっきり見える年になりました。
なぜ今、この動きが広がっているのでしょうか。株主や社会にはどんな影響があるのでしょうか。

2025年はなぜ「上場廃止」が目立ったのか

2025年は、企業の個別事情だけではなく、「上場を続けにくい環境」が重なった点が大きいです。ロイターは2025年11月、東京証券取引所で上場廃止となる企業が約120社に達し、2023年と比べて倍増する見通しだと報じました。
背景には、東証改革で上場を続けるための基準が厳しくなったことや、株主から利益や効率をより強く求められるようになったことがあります。さらに経済産業省は、経済安全保障(国の重要技術を守る考え方)の観点から、買収などによる技術流出のリスクにも触れ、「上場するかどうか」を含めて資本政策を見直すよう促すガイドライン案を公表しました。

こうした流れの中で、2025年は上場廃止済みと年内廃止決定を合わせると122社に達し、2023年の61社、2024年の94社から増え、大阪証券取引所との統合以降で最多件数を2年連続で更新したとされています。

具体例で見る非公開化 ラクスル・レジル・カオナビ

2025年に注目された非公開化は、テクノロジーやサービス分野に多く見られました。

ラクスルは、米ゴールドマン・サックス系ファンドをスポンサーとするMBOを発表し、1株1,710円でのTOBを実施しました。発表前日の終値1,226円に対して、約4割高い価格(プレミアム)が付けられ、TOB成立後は上場廃止が予定されています。

電力系スタートアップのレジルは、アメリカのベインキャピタルによるTOBを受け入れて非公開化へ進みました。設備投資など、時間のかかる取り組みが重要な事業では、短期の株価の動きに左右されにくい形を選ぶことがあります。

人材管理SaaSのカオナビも、カーライル系ファンドのTOBにより、2019年の上場から数年で市場を離れました。

これらの事例に共通するのは、単に「業績が悪いから撤退した」というより、成長戦略やお金の集め方(資本政策)を作り直すために上場廃止が使われている点です。

TOBとMBO 似ている言葉の違い

TOBは、買付価格や期間を公表し、取引所の通常売買とは別の方法で株式を買い集める制度です。たとえば「何日から何日まで」「1株いくらで買う」と決めて実施します。

MBOは、経営陣が中心になって自社株を取得し、経営の決定権(支配権)を強める取引です。資金は、経営陣の出資に加え、銀行の融資や投資ファンドの出資などが組み合わさることが一般的です。

整理すると、TOBは「どうやって株を集めるか」MBOは「誰が中心になって買うか」に注目した言葉です。実際の取引では、経営陣と投資ファンドが組み、TOBの仕組みを使って非公開化を進めるケースが増えています。

上場をやめる理由 コスト・株主の圧力・経済安全保障

上場する目的には、投資家からお金を集めやすくすること(資金調達)、知名度や信用力を高めること、人材確保に役立てることなどがあります。

一方、上場を続けるには、定期的な情報開示(決算の公表など)、投資家対応(IR)、内部統制の整備などが必要で、手間も費用もかかります。東証改革で「資本コストや株価を意識した経営」が求められるようになり、上場維持基準(例:時価総額10億円以上など)に届かないリスクを理由に、非公開化を選ぶ企業も出ています。

さらに、親会社と子会社が同時に上場する「親子上場」の見直しも進んでいます。親会社がTOBで子会社を完全子会社化し、少数株主との利害のずれを減らす動きが続いています。

加えて、投資ファンドなど(アクティビストを含む)が企業に強い提案を行う場面も増え、経営者の判断に影響を与えることがあります。
測量機器メーカーのトプコンは、MBOにより中長期目線で投資を進め、業績の立て直しを図る方針を示しました。2025年のMBO件数は25社に達し、過去14年で最多となったとされています。

株主はどうなるのか

上場廃止のときに株主がどうなるかは、TOBがあるかどうかで大きく変わります。

TOBが実施される場合、株主は提示された価格で株を売却できます。TOBの後に「スクイーズアウト(少数株主の株式をまとめる手続き)」が行われ、残った株も原則として同水準の条件で現金化されます。ここで重要なのは、自分の平均購入価格とTOB価格の差です。TOB価格の方が高ければ利益になり、低ければ損失になります。

一方、不祥事などで処分的に上場廃止となり、TOBが行われない場合もあります。この場合は、株を持っていても取引所で売れなくなり、売買しづらくなります(流動性が下がる)。投資家にとって不利になりやすい点は理解しておく必要があります。

まとめ
  • 2025年はTOBやMBOによる非公開化が増えた年
  • 上場廃止企業は約120社に達し2023年から倍増する見通し
  • 東証改革で上場維持の基準が厳しくなった
  • 株主から効率や収益を求められる圧力も強まった
  • 経済安全保障の視点が資本政策に影響し始めている
  • 株主はTOB価格と自分の購入価格の差を確認することが重要

TOBやMBOのニュースは「株がいくらで買われたか」に注目が集まりがちです。しかし本質は、「会社の意思決定の仕組み」と「経営の時間軸」が変わる点にあります。短期の株価を意識して動くのか、中長期の投資を優先するのかで、企業の行動は変わります。また、技術流出のリスクなど、経済安全保障の観点も資本政策の判断材料になり始めています。

身近な上場企業を一つ選び、次の3点を調べてみてください。
①なぜ上場しているのか(資金調達・信用力・人材など)②お金を何に使っているのか(設備・研究開発・M&Aなど)③もし非公開化したら、株主・従業員・利用者にどんな変化が起きそうか。
こうした視点でニュースを見ると、「株式会社」や「資本市場」の仕組みが、現実の経済とつながって理解しやすくなります。