アップルが選んだ「インド」―関税・市場・リスクから読み解く生産戦略
決算:Apple、4~6月のトランプ関税コスト1300億円 iPhoneはインド生産 - 日本経済新聞
【シリコンバレー=中藤玲】米アップルは1日、トランプ米政権による対中追加関税によって2025年4〜6月期に9億ドル(約1300億円)のコストがかかると明らかにした。同時期に米国で販売するスマートフォン「iPhone」の生産は中国からインドに切り替えると表明した。同日発表した2025年1〜3月期決算は、売上高が前年同期比5%増の953億5900万ドル、純利益は5%増の247億8000万ドルだった
みなさんの多くが毎日使っているiPhone。その多くはこれまで中国で作られてきましたが、最近アップルは「アメリカで売るiPhoneはインドで作る」と発表しました。なぜアップルは生産地を変えたのでしょうか?その背景には、アメリカと中国の貿易摩擦や、世界経済の大きな動きが関係しています。
アップルの決断の理由や関税のしくみ、世界経済が私たちのスマートフォンにどう影響しているかを見てみましょう。
生産地変更の背景にある世界の動き
米中貿易摩擦と関税の影響
アップルはこれまで、アメリカで販売するiPhoneの多くを中国で生産していました。しかしアメリカと中国の間で貿易摩擦が激しくなり、アメリカ政府は中国からの輸入品に高い関税(税金)をかけるようになりました。とくにトランプ政権以降、中国製品には最大145%の関税がかかることもあります。
2025年4月〜6月期だけで、アップルは約1300億円(9億ドル)の追加コストが発生すると発表しました。
サプライチェーンのリスク分散
中国に生産を集中させると、工場の閉鎖や労働問題で生産が止まるリスクがあります。2022年には中国の「ゼロコロナ政策」により工場が一時閉鎖され、iPhoneの生産が大きく遅れました。
こうしたリスクを減らすために、アップルは「チャイナ・プラス・ワン」という戦略をとり、中国以外でも生産を進めています。
インド市場の成長と政府の後押し
インドは人口が多く、今後スマートフォンの需要が高まると見られています。インド政府は「メイク・イン・インディア」政策で海外企業の工場誘致を進めており、税制優遇や補助金などの支援も行っています。現地で生産すれば、高い輸入関税を避けられ、製品価格を下げることができます。
インド生産のメリットと課題
メリット
インドで生産することで、アップルは関税コストを抑え、リスクを分散できます。また、インド市場でのシェア拡大にもつながります。2025年3月までに、インドで作られたiPhoneは約4300万台にのぼり、今後さらに増える計画です。
課題
すべての部品をインドで作るのは難しく、多くの部品は今も中国から運ばれています。また、インドでの生産コストは中国より5〜10%高くなることもあります。完全に中国への依存をなくすには、まだ時間がかかりそうです。

アップルの業績とサービスの伸び
2025年1月〜3月期のアップルの売上高は約9兆5000億円で、前年より5%増加しました。アメリカや日本では売上が伸びましたが、中国ではAI(人工知能)機能の遅れや現地企業との競争があり、売上が減少しました。
一方、アプリや音楽配信などのサービス部門は12%増と好調で、現在ではアップル全体の売上の約3割を占めています。
法律の変化とビジネスへの影響
ヨーロッパでは「デジタル市場法(DMA)」という新しい法律ができ、大企業による市場の独占を防ぐための規制が強化されています。アップルはこの法律に違反したとして、約820億円の罰金を科されました。今後はアプリ開発会社がアップルに払う手数料が減る可能性があり、サービス部門の利益にも影響が出るかもしれません。
AIアプリの急成長
最近では、AI(人工知能)を活用したアプリが大きな注目を集めています。2025年初め、アップルのApp Storeの売上は14%増加しました。ChatGPTのようなAIアプリが多くの人に使われており、アップルも今後、AIや先端技術への投資を強めていくと見られています。
まとめ
- アップルは米中貿易摩擦による関税コスト増に対応して、インドでの生産を進めている
- インド生産はコスト削減、リスク分散、インド市場拡大に効果がある
- 部品の多くはまだ中国製で、完全な脱中国には時間がかかる
- サービス部門やAI技術の伸びがアップルの業績を支えている
- ヨーロッパの新しい法律など、世界のルールもビジネスに大きな影響を与えている
あなたが毎日使っているスマートフォンも、実は世界中の経済や企業の戦略に関係しています。「どこで、なぜその国で作られているのか?」を考えてみましょう。こうした視点を持つことが、将来の進路や仕事選びにも役立つはずです。これからもニュースや世界の動きを見て、自分なりに考えを深めていきましょう!