いわき信用組合が陥った組織的隠蔽―247億円の不正融資
専門家は「組織全体が腐っている」 無断借名融資に横領...いわき信用組合を巡る不祥事 第三者委員会が報告:ニュース - FTV 福島テレビ
いわき信用組合(福島県いわき市)が、長い間隠し続けてきた多額の「不適切な融資」について。5月30日に記者会見が行われた。会見には、いわき信用組合の本多洋八理事長と坂本芳信常勤監事の2人が出席し、一連の...
あなたは信用組合をどんな組織だと思いますか?銀行と同じように、地域の人々のお金を預かり、必要な時に融資する、信頼の象徴のような存在であるはずです。
しかし、福島県いわき市の「いわき信用組合」で、なんと247億円という途方もない金額の不正融資が20年間も続いていた事件が発覚しました。
2025年5月30日、第三者委員会が調査結果を発表し、その規模と手口の巧妙さは金融業界に大きな衝撃を与えています。なぜこれほど巨額の不正が長期間発覚しなかったのでしょうか?
事件の全体像~247億円という巨額不正の実態
発覚のきっかけと調査の開始
2024年9月、SNS上で元職員を名乗る人物が不正を告発したことから、この巨大な不祥事が明るみに出ました。当初、いわき信用組合は「約17億円の不正融資」と発表していましたが、第三者委員会の徹底調査により、実際の規模は247億円を超える史上最大級の金融不祥事であることが判明しました。
この不正は2004年から2024年まで20年間続き、1293件もの不正融資が実行されていました。使用された名義は263人分、口座数は1316に及ぶ組織的かつ大規模なものでした。
三つの主要事案
第三者委員会は、この不正を三つの主要事案に分類しました。
甲事案は、経営難の大口取引先「X1社グループ」への資金提供を目的とした不正融資です。架空会社(ペーパーカンパニー)や役職員の親族・知人の名義を無断で使い、約11億円を流用していました。
乙事案は、元職員による約2億円の横領事件です。顧客名義を無断で使って融資を受け、そのお金を着服していました。
丙事案は、別の元職員が支店の金庫から現金20万円を盗んだ事件です。
不正の手口~なぜ20年間も発覚しなかったのか
巧妙な隠蔽工作
この不正が長期間発覚しなかった理由は、組織ぐるみの徹底した隠蔽工作にありました。
まず、架空会社の利用です。実際には事業をしていない「ペーパーカンパニー」3社を設立し、これらの会社への融資という形で資金を作り出していました。
次に、無断借名融資という手口です。役職員の家族や友人、さらには既存顧客の名義を本人に無断で使い、融資を実行していました。借入申込書や契約書は複数の職員が分担して偽造し、筆跡が同じにならないよう工夫していました。
組織的な隠蔽体制
発覚を防ぐため、組織全体で隠蔽工作が行われていました。
期日案内の抜き取りでは、融資の返済期日が近づくと顧客に送られる通知書を、名義人本人ではなく組合内部で処理していました。
顧客情報の改ざんも行われ、無断で名義を使われた人の電話番号や生年月日を実際とは違う情報に変更し、事情を知らない職員が連絡を取れないようにしていました。
内部監査の骨抜きも深刻でした。本来なら不正を発見すべき内部監査でも、監査担当者に対して「この融資は上層部の指示だから指摘するな」と口止めが行われていました。
恐怖による支配
組合内では一部の幹部によるパワーハラスメントが常態化していました。「会社にいたければ黙っていろ」「誰から給料をもらっているんだ」といった脅しにより、職員は不正を知っても声を上げることができませんでした。
被害の実態と社会への影響
直接的な被害
名義を無断使用された人々は、自分の知らないうちに多額の借金を背負わされる形になりました。幸い、使用された融資の種類が信用情報に登録されないものだったため、信用情報の毀損は免れましたが、精神的な苦痛は計り知れません。
組合員や預金者にとっては、信頼していた金融機関が巨額の損失を抱えることになり、経営の安定性に大きな不安が生じました。
使途不明金の存在
さらに深刻なのは、約8.5億円から10億円の使途不明金の存在です。X1社グループへの提供分(約11億円)と横領の補填分(約2億円)を差し引いても、多額の資金の行方が分からないままです。
再発防止に向けた取り組み
経営陣の刷新
事件発覚後、理事長をはじめとする主要役員が辞任しました。新しい経営陣には、全国信用協同組合連合会からの役員招聘や外部専門家の登用により、ガバナンス体制を根本から見直すことが決定されています。
内部統制の強化
コンプライアンス体制の徹底として、法令遵守の意識を全職員に浸透させる教育プログラムが開始されました。内部通報制度の拡充により、不正を発見した職員が安心して報告できる環境を整備しています。外部監査の強化では、第三者による定期的なチェック体制を構築し、組織の透明性を高めています。

この事件から学ぶべきこと
金融機関の社会的責任
金融機関は地域経済の血液とも言える存在です。その信頼が失われることは、地域全体の経済活動に深刻な影響を与えます。今回の事件は、金融機関には特に高い倫理観と透明性が求められることを改めて示しています。
組織文化の重要性
どんなに立派な規則があっても、組織の文化が健全でなければ不正は防げません。上司の顔色をうかがうのではなく、正しいことを正しいと言える組織風土の構築が不可欠です。
まとめ
- いわき信用組合で247億円超の史上最大級不正融資事件が発覚
- 20年間にわたり1293件の不正融資が組織的に実行・隠蔽された
- 架空会社や無断借名を使った巧妙な手口で長期間発覚を免れた
- パワハラと恐怖による支配で内部告発が封じられていた
- 約8.5億円から10億円の使途不明金が今も残されている
- 経営陣刷新と内部統制強化により再発防止に取り組んでいる
この事件は、金融機関の「信用」がいかに大切で、同時にいかに脆いものかを教えてくれます。お金は社会を循環する血液のようなもので、その流れを管理する金融機関が健全でなければ、社会全体が病気になってしまいます。
皆さんが将来、どんな職業に就いたとしても、「正直さ」と「透明性」は最も大切な価値観です。組織の中で不正を見つけた時、声を上げる勇気を持てるでしょうか?また、そのような声を受け入れる組織を作ることができるでしょうか?
この事件を通じて、お金の管理や組織運営の大切さ、そして一人ひとりの倫理観が社会全体に与える影響について、ぜひ考えてみてください。未来の社会をより良くするのは、今の皆さんの学びと行動にかかっているのです。