FRUITS ZIPPER出演中止の理由は?SAMURAI SONICで起きた偽契約事件
人気アイドル出演フェスで「偽契約」発覚、エンタメ業界の「地面師詐欺」か? 河西弁護士が解説 - 弁護士ドットコム
10月開催の音楽フェスに出演を予定していた複数のアイドルグループが、出演困難になったとイベント運営が発表した。エンターテインメント業界のトラブルにくわしい河西邦剛弁護士は、「これは"地面師詐欺"と同じ...
2025年10月、千葉・幕張メッセで開催予定の音楽フェスで、人気アイドルグループ4組の出演が突然中止になりました。FRUITS ZIPPERやCUTIE STREET、≠ME、≒JOYというファンが楽しみにしていたグループが、舞台に立てなくなった理由は「偽契約」です。
事務所関係者と名乗る人物が、実は何の権限もなかったことが判明しました。この事件は、契約や信用という社会の基本的な仕組みがいかに大切か、そして油断するとどんな被害が起こるのかを教えてくれます。なぜこのような事件が起きたのか、私たちは何を学ぶべきなのか、一緒に考えてみませんか。
事件はどのように起きたのか
偽の関係者が契約を結んだ
音楽フェス「SAMURAI SONIC 2025」と「GIGA GIGA SONIC」の運営会社は、代理店を通じて出演交渉を進めていました。代理店との間で「各アイドル事務所の関係者」と名乗る人物が登場し、出演契約を結んでしまいます。ところが、各アイドル事務所に確認したところ「そんな人物は在籍していない」と連絡が入り、偽契約だったことが発覚しました。
運営会社はすぐに警察に相談し、法的機関の助言を受けながら対応を進めています。
代理店を通したことが盲点に
大規模な音楽フェスでは、多くの出演者を一度に集めるため、代理店を利用するのが一般的です。運営会社は「もともと関係性のあった代理店」を信頼していたため、慎重な確認作業が不十分になってしまいました。専門家は「代理店を通していたために気付けなかった落ち度がある」と指摘しています。

お金は動いたのか
金銭被害はほとんどなかった
河西邦剛弁護士によると、今回の事件では出演料の支払いについての記載がなく、金銭目的だけとは考えにくいと説明されています。出演料は通常イベント後に支払われるケースが多く、虚偽の契約は本番前のどこかで必ず発覚するためです。実際、運営会社は契約の無効が判明した時点で支払いを停止しています。
誰が損をしたのか
今回の事件で直接的な利益を得た人物は確認されていません。一方、損害を受けたのは運営会社、楽しみにしていたファン、そして出演予定だったアーティストとその事務所です。運営会社は返金対応や信用の低下、ファンは期待を裏切られた失望、アーティスト側は出演機会の喪失といった被害を受けました。
返金対象者は当初「該当アーティストを目当てにチケットを購入した人のみ」でしたが、その後「9月28日以降10月2日までにチケットを購入した全員」に拡大されました。
同じような事件は他にもあるのか
日本で起きた地面師詐欺
今回の事件と似た構造の犯罪に「地面師詐欺」があります。地面師とは、本物の土地所有者に成りすまして土地を売却し、お金を騙し取る犯罪者のことです。
最も有名な事例は、2017年6月に発生した積水ハウス地面師詐欺事件で、大手住宅メーカーが約55億5,900万円を騙し取られました。地面師グループ15名が逮捕され、主犯格には懲役11年の判決が出ましたが、約55億円は戻りませんでした。この事件は小説やドラマ「地面師たち」の元ネタにもなっています。
芸能界の偽スカウト詐欺
エンタメ業界では、偽スカウトによる被害も多発しています。大手芸能事務所のアミューズは、夏休みや春休みを前に「当社社員や関係者だとウソをつくスカウトの通報が増えている」と注意喚起を行っています。
偽スカウトの手口は「モデル・タレントになりませんか」と声をかけ、レッスン料として数十万円から100万円を騙し取るものです。国民生活センターに相談する被害者の3人に2人は20代以下という調査結果もあります。
世界でも発生している
音楽業界では、アメリカで音楽ストリーミングサービスを悪用した詐欺事件も発生しており、被害額は約14億円に達しました。また、なりすましアカウントによる詐欺はアジア圏を中心に世界中で報告されています。
被害を防ぐために大切なこと
本物かどうかの確認が重要
河西弁護士は「初めて取引する相手とは、細心の注意を払う必要がある」と指摘しています。特にSNSのDMやメールだけでやりとりを完結させず、相手の事務所に直接訪れて所属を確認することが最も確実な方法です。名刺やSNSアカウントはいくらでも偽造できるため、慎重な確認作業が求められます。
契約には必ず大人と相談を
偽スカウトの特徴として「すぐに契約したがる」「不要なお金を要求してくる」「会社情報がわからない」などがあります。怪しいと感じたら、すぐに契約せず親や学校の先生など信頼できる大人に相談することが大切です。

まとめ
- 2025年10月の音楽フェスで、偽の事務所関係者が契約を結び4組の出演が中止
- 金銭被害はほとんどなく、運営会社やファン、アーティストが損害を受けた
- 積水ハウス地面師詐欺事件では55億円以上が騙し取られた過去がある
- 芸能界では偽スカウトがレッスン料として数十万円から100万円を騙し取る事件が多発
- 本物かどうかの確認と、大人への相談が被害を防ぐ鍵
「契約」や「信用」は、経済やビジネスの基本です。今回の事件は、どんな業界でもこれらの仕組みが揺らぐと大きな混乱が起きることを示しています。
わたしたちは、仕事や買い物で契約を結ぶ場面に必ず出会います。「もし自分が運営者だったら、どうやって本物か確認するだろうか?」「偽スカウトに声をかけられたら、どう対応したらよいか?」を考えてみてください。
こうした問いを考えることが、社会を生き抜く力につながります。