天音かなた卒業で揺れるホロライブ:Vtuber業界の働き方とビジネス

カバー株式会社は、「ホロライブプロダクション」をはじめとした日本ならではのコンテンツを世界に向けて発信している、次世代のエンターテインメント企業です。

ホロライブを運営するカバーは、2025年に新規タレントを1人も追加しない中で8人のVTuberを失いました。 一方で同社の従業員数は、2024年12月末の652人から2025年9月末には743人へと約100人増加しています。
にじさんじを運営するANYCOLORでも、2025年11月末に炎上した悪魔系VTuberと主力のお嬢様系VTuberが同一人物ではないかという「一人二役」疑惑がネット上で話題になりました。
VTuber市場は2025年に約1000億円規模に達すると予測され、両社は上場企業として高い収益性を維持していますが、タレントの卒業や労働環境への批判が相次いでいます。 成長産業の裏側で、いま何が起きているのでしょうか。

VTuber市場はどれくらいの規模か

VTuber市場は2023年度に前年度比約1.5倍の約800億円と推計され、2025年には約1,000億円規模に達する予測が出ています。
ANYCOLORは2022年6月に東証グロース市場へ上場し、2023年6月に東証プライム市場へ移行しました。 カバーも2023年3月にグロース市場へ上場し、2024年5月にプライム市場への移行検討を発表しています。

​2024年決算期 ANYCOLORとカバーの比較

項目ANYCOLORカバー
売上高約320億円約300億円
営業利益約120億円約55億円
営業利益率約38%約18%
売上原価約168億円約162億円
販売費及び一般管理費(販管費)約28.5億円約84.5億円
うちイベント費用記載なし約34.7億円

2024年決算期の売上高はANYCOLORが約320億円、カバーが約300億円とほぼ同じ規模です。 営業利益はANYCOLORが約120億円、カバーが約55億円と約2倍の差があり、営業利益率はANYCOLORが約38%、カバーが約18%と報告されています。
売上原価はANYCOLOR約168億円、カバー約162億円と大差ありませんが、販管費はANYCOLOR約28.5億円に対しカバーは約84.5億円とされ、カバーはイベント費用に約34.7億円を投じていることが説明されています。

ANYCOLORの「一人二役」疑惑

2025年11月29日ごろ、にじさんじ所属の悪魔系VTuberがSNS上の発言をきっかけに炎上し、その後、同じ事務所の主力お嬢様系VTuberと「同一人物ではないか」という説がSNS上で広まりました。 この疑惑はあくまでネット上での推測であり、現時点で公式な認定や企業側の詳細な説明は出ていません。

​​VTuber業界では、一人の演者が複数キャラクターを担当するケース自体は一般的に存在し得るとされていますが、具体的なキャラクター同士の関係は多くの場合、企業側が公表していません。 今回も、「特定の2キャラクターが同一人物かどうか」は推測レベルにとどまっており、事実として断定できる情報はありません。

カバーで相次ぐ卒業とその理由

ホロライブ所属の人気VTuber天音かなたさんは、2025年12月2日に同年12月27日をもって卒業することを発表しました。 本人と運営は、卒業理由として以下の3点を挙げています。

  1. 当初想定された領域を大きく超える業務外のタスクが何度も発生したこと
  2. その結果、自分の活動が回らないほど負荷が集中する期間が続いたこと
  3. 仕事の負荷による心身の状態から活動の継続が難しいと感じるようになったこと

この状況は数年前から続いており、ホロライブにも相談していましたが、解決には組織全体の仕組みの見直しが必要だったと説明されています。 天音かなたさんは、復帰や転生(別デザインのキャラクターとしてVTuber活動を続けること)の予定はないと明言しています。

カバーは2025年に8人のVTuberを失っており、2024年の4人から増加しています。 従業員数は2024年12月末の652人から2025年9月末には743人へと増加した一方、所属VTuber数は91人から86人へと減少しました。
この状況に対し、SNS上では「タレントが減る中で社員が増え続ける構図」への疑問や、カバーの運営体制への批判が広がっています。

株価への影響はどうだったか

カバーは、天音かなたさんの卒業発表直後に株価が年初来安値を更新し、4日続落したと報じられています。 人気VTuberの卒業発表を「ネガティブ視した売り」が出ているとされており、タレント離脱が業績や事業継続性への懸念として意識されたことが読み取れます。

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カバー 1ヶ月の株価推移
みんかぶより
VTuberは重労働なのか

VTuberの仕事は、「長時間労働」「不規則な生活」「常に高いテンションを求められる精神的負担」という三つの面できつくなりやすいと言われています。 配信に加えて、企画・台本作り・編集・サムネ制作・SNS更新・コラボや企業案件の調整など、多くのタスクを一人(または少人数)でこなすケースが多いとされています。

人気が出るほど、イベント出演やコラボ案件、グッズや広告の収録など「業務外タスク」が増え、スケジュールが詰まりやすいと指摘されています。 天音かなたさんのケースでは、「業務外タスク」がどの部署の仕事か整理されないまま本人に集中していたと説明されており、これは個人だけでなく組織側のタスク設計・人員配置の問題としても語られています。

VTuber演者の労働環境について、「長時間労働や炎上リスク、収益分配の不透明さがストレス要因になりやすい」「メンタルサポートや配信スケジュールの調整など、制度的なケアがまだ十分ではない事務所もある」という指摘もあります。

まとめ
  • VTuber市場は2025年に1,000億円前後まで拡大する見込み
  • ANYCOLORとカバーはいずれも売上約300億円規模の上場VTuber企業
  • カバーは2025年にVTuberを8人失い、従業員は約100人増えたが所属VTuberは減っている
  • 天音かなたさんは業務外タスクの集中と心身の状態を理由に卒業を発表
  • VTuberの仕事は長時間労働や精神的負担が大きく、タスク設計やケア体制の不足が課題​

VTuber業界で起きている出来事は、企業の経営や働き方の問題として考えることができます。まず、売上や利益といった決算の数字から、どの会社がどのようなビジネスモデルを採用しているのかを読み解く練習をしてみてください。 例えば、売上は同じくらいなのに利益が大きく違う場合、「どこにコストをかけているのか」「その投資は長期的に意味があるのか」といった視点で比較できます。

次に、VTuberという「キャラクター」と、その裏側にいる「中の人」の関係を、労働や契約の観点から考えてみると、現代のコンテンツ産業の特徴が見えてきます。 人気タレントが多くのタスクを抱えることは、効率的なようでいて、長期的には心身の負担やブランドリスクを高める可能性があります。

最後に、自分が好きなコンテンツ産業(音楽、アニメ、ゲームなど)でも、「企業の売上と利益」「スタッフや出演者の働き方」「ファンの期待」の三つがどうバランスしているか調べてみると、社会や経済の仕組みをより実感を持って理解できます。 あなたなら、VTuber事務所の経営者だったとき、「タレントの数」「社員の数」「イベントやグッズの投資」のバランスをどう決めるでしょうか。数字とニュースをヒントに、自分なりの答えを考えてみてください。