中国資本が席巻するロボット掃除機市場:ルンバで有名なiRobotが破産&中国企業が買収
「ルンバ」のアイロボットが破産申請、中国企業が買収へ - CNET Japan
ロボット掃除機「ルンバ」で知られるアイロボットは、連邦破産法第11条の適用を裁判所に申請したと発表した。
ロボット掃除機と聞いて、多くの人が思い浮かべる名前が「ルンバ」ではないでしょうか。そのルンバを生んだアメリカ企業iRobotが、2025年12月に米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請しました。
同時に、中国のPICEA Roboticsが同社を買収する計画も公表され、市場は大きな転換点を迎えています。
この出来事は、1社の経営不振にとどまらず、ロボット掃除機という世界市場そのものが、どの国の企業に支えられているのかを映し出す象徴的な事例です。なぜ先行していた企業が後退し、どのようにして勢力図が塗り替えられたのでしょうか。
以前、キッズノミクスでもiRobotの危機の記事を掲載しました。
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iRobot破産とPICEAによる買収の概要
2025年12月、iRobotはチャプター11を申請しました。これは会社をただちに清算する制度ではなく、裁判所の管理のもとで事業を続けながら借金を整理し、再建を目指す仕組みです。iRobotは、破産手続き中もルンバの販売、サポート、アプリ提供を継続すると説明しています。
同時に発表されたのが、中国のShenzhen PICEA Roboticsおよび関連会社による再建支援です。破産計画が裁判所に認可されると、PICEAはiRobotの株式を100%取得し、同社は非上場企業になります。既存株式は無価値化され、手続き完了は2026年2月ごろが目安とされています。
先行企業iRobotはなぜ苦境に立ったのか
ルンバは、家庭用ロボット掃除機という新しい市場を切り開いた存在でした。
しかし2020年代に入ると、中国メーカーが急速に存在感を高めます。石頭科技(Roborock)、科沃斯(Ecovacs)、追跡(Dreame)、小米(Xiaomi)などは、価格を抑えつつ吸引力やナビゲーション性能を強化し、世界市場でシェアを拡大しました。
アメリカ調査会社IDCの統計では、2023年上期から2025年上期にかけて、中国ブランドの比率が高まる一方、iRobotのシェアは一桁台に縮小しています。

iRobotは成長戦略の一環として、2022年にAmazonによる約14億ドル(約2,240億円・1ドル160円換算)の買収計画を発表しました。しかし、データ活用や競争への影響を懸念した各国の規制当局の審査を受け、2024年初めに計画は中止されます。
その後、価格競争による利益悪化に加え、米国による高関税、数億ドル規模の借入負担が重なり、2025年末時点で約1億9,000万ドル(約304億円)のローンを抱える状況に陥りました。
PICEAが得るものと再建の仕組み
PICEAは単なる買い手ではありません。同社はiRobot製品の主要な製造委託先であり、大口の債権者でもありました。iRobotはPICEAグループに対して製造代金など約1億6,150万ドル(約258億円)の債務を負っており、投資ファンドからの約1億9,000万ドルのローンも、PICEA側の関連会社が取得していました。
再建計画では、これらの債権を株式と交換することで、借金を実質的に整理し、その見返りとしてPICEAがiRobotの全株式を取得します。PICEAはこの取引により、世界的に知られた「Roomba」ブランド、北米・欧州・日本の販売網、35年以上にわたるロボット技術や特許を一体で手に入れることになります。
一方のiRobotにとっては、負債を軽くし、事業を続ける道が残されました。
中国資本が支配する世界市場
IDCのデータによると、2025年上期のロボット掃除機世界市場(台数ベース)では、上位5社に石頭科技、科沃斯、追跡、小米、iRobotが並びます。このうち上位4社は中国企業で、iRobotも今回の取引により中国資本の傘下に入る見通しです。その結果、主要ブランドはすべて中国資本となり、市場は「中国勢5社+その他」という構図に近づきました。同じ流れはアジアの経済メディアでも取り上げられ、米国系ブランドの後退と中国ブランドの優位が指摘されています。

企業再編は私たちの生活にどう影響するのか
短期的には、ルンバの利用環境が急に変わるわけではありません。しかし、所有者が変わることで、将来的な製品価格、ラインナップ、ソフトウェア更新方針、データの扱いが見直される可能性はあります。
経済の視点で見ると、この事例は複数のしくみを示しています。
激しい価格競争は利益を圧迫し、研究開発に回せる資金を減らします。製造を担ってきた企業が資本力と技術力を高めると、ブランドを持つ企業を買収する立場に回ることもあります。
また、チャプター11のような破産制度は、企業を消滅させるのではなく、所有者を入れ替えながら事業を存続させる仕組みとして機能します。
さらに、スマート家電ではデータ保護や競争政策が、企業の成長戦略を左右する要素になっています。AmazonによるiRobot買収計画が規制当局の判断で中止されたことは、その象徴的な例です。
まとめ
- ロボット掃除機市場では主要5社が中国資本となり勢力図が大きく変化
- iRobotは競争激化や関税負担買収中止が重なり破産に至った
- PICEAは債権を株式に替えブランドと技術を取得
- 破産は消滅ではなく再建と所有者交代の仕組み
- スマート家電では価格だけでなくデータと規制も重要
ロボット掃除機の事例は、特定の国や企業がどのようにして世界市場を支配するようになるのかを考える手がかりになります。価格競争、技術開発、製造とブランドの分業、そして規制の影響が、企業の運命を左右しました。同じ視点で、スマートフォンや電気自動車、ゲーム機など他の産業を見てみると、似た構図や違いが見えてきます。なぜある国の企業が強くなり、別の国の企業が後退したのか。その背景にある経済のしくみを、自分なりに比べて調べてみてください。



