ファッションは経済の鏡?9億点データで見る景気と消費の関係

ファッション通販白書 by ZOZOTOWN

ZOZOTOWNが公開した「ファッション通販白書 by ZOZOTOWN」は、約20年間で9億点以上の購買データを分析し、日本の気候、景気、働き方、地域差といった社会の変化を可視化したレポートです。Tシャツの売れる季節や価格帯、色の選ばれ方、都道府県ごとの買い方まで、服の売れ方には経済の動きが反映されています。身近な服のデータから、私たちの暮らしや日本経済はどこまで読み解けるのでしょうか。

まずはクイズで考えてみよう(正解は問題をクリック)

Q. ZOZOTOWNの購買データによると、景気が上向いている時期に比率が高くなる色はどれでしょうか?

A. 赤
B. 白
C. 黒

→正解は「C. 黒」です。(その理由や背景は、記事後半で解説します)

気候と働き方が変えた服の売れ方

気象庁の観測では、この約20年で日本の平均気温はおよそ1℃上昇しています。
白書では、Tシャツやカットソーの販売ピークがかつての5〜7月から、現在は4〜8月へと広がり、アウターの販売期間は短くなったことが示されています。気温の上昇により、季節の境目が曖昧になったことが背景にあります。

同時に、スニーカーやサンダルの購入比率が約30ポイント増加し、通勤服もカジュアル化しました。
総務省の調査では、リモートワークを取り入れる企業が増えたことが確認されており、働き方の変化が服装にも影響していることがわかります。気候と労働環境の変化は、ファッション消費の前提条件を大きく変えました。

物価は上がるのに、服の購入価格は下がった?

ここ数年、ニュースでは「インフレ(物価上昇)」が話題ですが、ファッションの現場では少し違う現象が起きています。20年前、Tシャツの売れ筋価格帯は「5,000円未満」が主流でしたが、現在は「3,000円未満」へとシフトしました。

なぜ、物価高の中で購入単価が下がっているのでしょうか。
背景には、製造・流通の効率化があります。オンライン販売(EC)の普及により、中間コストを省いて安く販売できるブランドが増加しました。また、消費者が「日常着はコスパ重視、長く使うものは高品質」というふうに予算配分をシビアに見直していることも、家計調査のデータから読み取れます。

景気と「黒い服」が連動する理由

内閣府の景気動向指数とZOZOTOWNの購買データを比較すると、景気が上向く時期に黒いアイテムの販売比率が高まる傾向が確認されています。
例えば、2005〜2007年には黒の比率が約3割に達し、景気低迷期には2割を下回りました。
「景気が良いなら明るい色が増えそう」「景気が悪いときのほうが黒い服が増えそう」と思うかもしれません。

Q. では、なぜ景気が上向いてくると、黒い服の比率が高くなるのでしょうか。

​一般的に「不景気=暗い色」とイメージしがちですが、データは逆を示しています。
景気が安定して上向くときこそ、人々は冒険せず、長く着られる「定番としての黒」を安心して選ぶ傾向があるようです。また、黒はビジネスや式典でも使いやすく、価格が高めでも選ばれやすい色とされています。
世界のレポートでも、景気や為替の変化に応じて高価格帯と低価格帯の売れ方が入れ替わることが示されています。

内閣府が発表する「景気動向指数」とZOZOTOWNのデータを照らし合わせると、不況期(リーマンショック後など)には黒の購入比率が下がり、景気が回復する時期(2014年〜2019年など)には黒の比率が上昇するという相関が見られました。

地域ごとに異なるファッションの姿

購買データを地域別に見ると、その土地の気候や生活スタイルが消費に直結していることがわかります。いくつか特徴的な例を見てみましょう。​

  • 北海道(ルームウェア支出 1位):長く厳しい冬を快適に過ごすため、「家の中の服」にお金をかける傾向があります。
  • 東京都(リユース・下取り利用率 1位):最新トレンドを取り入れつつ、不要な服を売って循環させる「サステナブルな消費」が浸透しています。
  • 大阪府(サンバイザー支出 1位):自転車移動が多い都市特性もあり、日よけとおしゃれを兼ねた実用アイテムが支持されています。
  • 山口県(スカジャン支出 1位):スカジャンといえば横須賀(神奈川)のイメージですが、実際の購入額では山口県がトップという意外な事実も判明しました。

このように、地域ごとの「環境」や「県民性」が、具体的な経済活動(消費)の差となって表れています。

ファッション通販白書 by ZOZOTOWN より
ZOZOの「データマーケティング」の力

そもそも、なぜ一企業がここまで詳細な分析をできるのでしょうか。それはZOZOが徹底した「データマーケティング」を行っているからです。データマーケティングとは、勘や経験に頼らず、蓄積された事実データ(購買履歴・閲覧数・検索ワードなど)に基づいて戦略を決める手法です。

ECサイトでは「誰が・いつ・何回・何と一緒に」商品を買ったか、すべてデジタルで記録されます。ZOZOはこのデータを活用し、利用者一人ひとりに最適な商品をおすすめ(レコメンド)したり、需要を予測して在庫を調整したりしています。
世界のアパレル市場は2030年に向けて成長が予測されていますが、その中心はECとデータ活用です。日本のアパレル市場全体は人口減少で横ばい傾向ですが、こうした「データで付加価値をつけるビジネス」には大きな成長余地が残されています。

まとめ
  • 日本の気温は20年で約1℃上昇し、服が売れる時期(シーズン)が変わった
  • 物価高でも、流通の効率化などでTシャツの購入価格帯は下がっている
  • 「景気が回復すると黒が売れる」というデータがあり、安定志向と連動している
  • 北海道の部屋着、東京のリユースなど、地域ごとに消費の優先順位が違う
  • こうした分析は、9億点以上の履歴を扱う「データマーケティング」によるもの

今回紹介したデータは、私たち一人ひとりの「買い物の結果」が集まったものです。
あなたが最近買った服のレシートや注文履歴を見返してみてください。「なぜそれを買ったのか」を考えると、そこには「暑かったから(気候)」「安くなっていたから(物価)」「長く着たかったから(景気心理)」といった理由が隠れているはずです。

これからの社会では、こうしたデータを読み解く力がビジネスの大きな武器になります。
まずは身近な「自分の買い物」から、世の中の動きを想像してみませんか?