アメリカで1セント硬貨が製造終了:232年の歴史に幕
最後の1セント硬貨を鋳造、232年の歴史に終止符 | ロイター
米財務省はフィラデルフィア造幣局で12日、1セント硬貨(ペニー)の最後となる5枚鋳造し、米国での232年間に及ぶペニーの生産に終止符を打った。ブランドン・ビーチ財務官が立ち会い、出席予定だったベセント財務長官はニューヨークでの演説後の移動が遅れたため欠席した。
アメリカで232年間続いた1セント硬貨(ペニー)の製造が終了しました。背景には、1枚をつくるコストが額面を大きく上回るという財政負担があります。現金の支払いは5セント単位に丸める方式へ進み、細かな価格設定は電子決済に委ねる流れが強まっています。
一方、日本でも1円玉の製造コストが額面を上回るとされ、小額硬貨のあり方が議論になっています。最小単位を維持し続ける意味はどこにあるのか。ペニーと1円玉の動きを通して、通貨制度の役割や「お金の細かさ」が社会に与える影響を考えるきっかけになります。
ペニーはなぜ終わったのか
アメリカの1セント硬貨は、1792年の「貨幣法」で1ドルの100分の1として定められ、1793年に発行が始まりました。物価が安かった時代には日常の支払いに欠かせない単位で、20世紀以降もリンカーン大統領の肖像で親しまれてきました。しかし、製造の中心となる金属価格やエネルギーコストが上昇し、2024会計年度には1枚あたり3.69セントの費用が必要になっています。
ペニーは流通硬貨の約57%を占めていたものの、「つくるほど赤字」と財務省が判断し、2025年2月の大統領命令で製造が終了しました。これにより、現金支払いは5セント単位に丸める方式が促されています。
同様の制度はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも採用され、現金の端数を処理する「丸め方式」が一般化しています。2025年11月のアメリカ連邦準備銀行の分析でも、丸め処理がインフレ率に大きな影響を与えたという結果は確認されていません。
日本の1円玉と5円玉──似た課題と異なる状況
日本の1円玉は純アルミ製で、製造コストは約3円前後と推計されています。材料費だけでなく、溶解や打刻の工程、人件費やエネルギー費が積み重なり、こちらも額面を上回る「赤字硬貨」です。5円玉も円安や金属価格の上昇でコストが額面に近づいていると指摘されます。このため、学者や論説記事では1円・5円硬貨の見直しや利用縮小を求める意見もあります。
一方で、日本政府は1円玉を法定通貨として維持しており、廃止の方針は示されていません。ただし、2020年代以降は新規製造枚数が大幅に減少し、2025年には参議院で1円玉の維持や社会的コストを問う質問主意書が提出されるなど、国会でも議論が続いています。

キャッシュレス化と「価格の細かさ」
アメリカではキャッシュレス比率が高まり、電子決済では1セント単位の正確な金額が処理できます。このため、ペニー廃止後も記帳上の価格はそのまま維持され、現金のみ5セント単位で丸める仕組みが成立しています。日本でも電子マネーやQRコード決済は広がっていますが、現金利用の比率は依然として高く、1円単位の支払いが多い点がアメリカとは異なります。
細かい単位は、税計算の正確さや小さな価格差を表すために有効です。しかし、硬貨の製造には国の費用がかかり、企業や店舗でも扱うための人件費や輸送費が必要になります。最小単位の維持には利便性とコストの両方を考える必要があります。
まとめ
- アメリカのペニーは232年の歴史を経て製造終了
- 現在のペニーは製造コストが1枚3.69セントで、額面を上回る赤字硬貨
- カナダやオーストラリアなどでも最小額面硬貨の廃止と丸め処理が広く導入
- 日本の1円玉は製造コストが約3円前後
- キャッシュレス化が進む中で、最小単位をどう扱うかは社会全体のコストと利便性のバランスが問われている
ペニー廃止のニュースからは、経済と社会の仕組みについていくつかの重要な視点が見えてきます。
一つは、「通貨制度もコストと無縁ではない」ということです。国が信頼を保証するお金であっても、その維持にはコストがかかり、経済合理に合わなくなれば見直しの対象になります。
もう一つは、「効率化と慣習の対立」です。5セント単位への移行は、レジの待ち時間を減らし、国の無駄を省くメリットがありますが、一方で「1セント単位の細かさ」に慣れ親しんだ人々の感覚や、端数処理による価格への影響といった懸念もあります。
身近なお金の単位から始まる議論は、通貨制度や物価の仕組みを理解する入口になります。

