個人預金争奪戦?銀行が仕掛けるカフェ併設・新型店舗の狙い

個人預金を獲得せよ 銀行が対面型拠点続々 スタバ併設、商業施設にイン…林立に課題も - 産経ニュース

金利上昇に伴う利ざや(預貸金利回り差)の改善などで金融機関が好業績に沸く中、各銀行が企業への貸し出しの元手となる個人預金を獲得するため、関西で新たな店舗戦略を…

スマートフォンだけで振込や残高確認ができる今、銀行の店舗は「そのうち減っていくのでは?」と思う人もいるかもしれません。ところが近年、大手銀行は店舗を減らすどころか、スターバックス併設のラウンジやコワーキングスペース付きの拠点など、リアルな場への再投資を進めています。その背景にあるキーワードが「個人預金争奪」です。

なぜ銀行は、コストのかかる店舗を工夫しながら残そうとしているのでしょうか。この記事では、銀行の収益構造と金利上昇、そしてカフェ併設・新型店舗がねらう本当の目的を、中高生にもわかる形で整理します。

銀行はなぜ個人預金を集めたいのか

銀行は社会のお金の流れを支える「金融仲介機能」を担っています。その中心となる三つの業務は次の通りです。

  • 預金業務:個人や企業からお金を預かる
  • 融資業務:預かったお金を、資金を必要とする企業や個人に貸し出す
  • 為替業務:振込や口座振替などでお金を移動させる

銀行の大きな収益源は、貸出金利と預金金利の差で得る利ざやです。日本では長い間、超低金利が続き利ざやが小さく、銀行の利益は伸びにくい状態でした。しかし、日本銀行の政策変更などを受けて2024年以降は金利が上昇し、2025年の中間決算では多くの銀行で純利益が増えています

金利が上がると、預金という「元手」を多く持つ銀行ほど、有利な条件で融資を行い、利ざやを確保しやすくなります。そのため、各行は個人預金をできるだけ多く自分のところに集めることを重視し、店舗やサービスの見直しを進めているのです。

ネット時代でも“リアル店舗”を残す理由

ネットバンキングやアプリが普及しても、銀行の店舗がなくならないのには、いくつかのはっきりした理由があります。

1. 店舗でしか完結しない手続きがある
高額の現金を扱う取引、相続や会社設立に関する複雑な手続き、厳格な本人確認が必要なケースなどは、今も対面での対応が中心です。給料日や企業の締め日など「五十日(ごとび)」には、窓口が混雑する状況が続いています。

2. お金の相談は「顔を見て聞きたい」
住宅ローンや教育資金、老後の資産形成など、人生に関わるテーマでは、専門の担当者に直接質問したいというニーズが根強くあります。ネットで情報を集めながらも、最終的な判断の前に店舗で確認する人も多く、銀行側もこの相談ニーズを重視しています。

こうした要因から、銀行は“なくす”のではなく、“役割を変えながら残す”という方向を選んでいます。

カフェ併設・新型店舗の狙いは「長く滞在してもらうこと」

近年注目されているのが、カフェやコワーキングスペースを併設した新型店舗です。代表的な例として、次のような取り組みがあります。

  • 三井住友銀行「Olive LOUNGE」
    スターバックスを併設し、ラウンジや会議室を備えた店舗です。金融手続きだけでなく、勉強や仕事、打ち合わせにも使える空間として設計されています。若い世代やファミリーに銀行を身近に感じてもらうねらいがあります。
  • 三菱UFJ銀行「エムットスクエア」
    商業施設内に設置された相談特化型店舗で、夜間や土日も営業します。現金の出し入れは行わず、資産運用やライフプランの相談に集中できるのが特徴です。
  • 常陽銀行「PLACE 849」など、地域密着型の拠点
    銀行跡地をコワーキングスペースやギャラリーに変え、イベントや地元商品の販売も行うなど、地域コミュニティの中心として活用する事例も増えています。

これらの店舗に共通するのは、「手続きが終わったらすぐ帰る場所」ではなく、「長く滞在し、くつろぎながら相談してもらう場所」に変えている点です。滞在時間が延びれば、資産形成や保険、投資信託などの提案もしやすくなり、個人預金や運用資金を自分の銀行でまとめてもらうチャンスが増えます。ここに、カフェ併設・新型店舗が持つビジネス上の狙いがあります。

まとめ
  • 金利上昇により、銀行は利ざやを確保するために個人預金の獲得競争を強めている
  • ネットでは完結しない手続きや、人生設計に関わる対面相談が、リアル店舗を支える
  • カフェやコワーキング併設などの新型店舗は、利用者に長く滞在してもらい、金融商品やサービスの提案につなげるための工夫
  • 一部の店舗は、イベントやギャラリー機能を通じて地域コミュニティの拠点としても活用されている

もしあなたが、自分のおこづかいやアルバイト代を預ける銀行を自由に選べるとしたら、どんなポイントを重視するでしょうか。金利の高さ、アプリの使いやすさ、家や学校からの近さ、店内の雰囲気、相談しやすさ――人によって優先順位は違います。

街でカフェ併設の銀行や、相談スペースが広い店舗を見かけたら、「この銀行はどんな人に来てほしいと思っているのか」「ここに預けると、どんなサービスを受けられそうか」を親子で話し合ってみてください。銀行同士が個人預金を取り合う“見えない競争”を意識すると、金融ニュースの見え方も変わってきます。