年賀はがきが「みやげ」になる街・鎌倉:年賀状じまい時代の郵便局の工夫

鎌倉は「年賀状離れ」知らず 販売枚数異例の増加続く | 鎌倉 | タウンニュース

全国的に減少の一途を辿っている「年賀状」。日本郵便の当初発行枚数は、記録が残る2004年用の44億5千万枚をピークに毎年減少し、2026年用は7億5千万枚と6分の1の規...

全国では年賀状の発行枚数が大きく減っています。デジタルでの連絡が一般化し、企業や個人の間で「年賀状じまい」も広がっています。
一方で、神奈川県鎌倉市では年賀はがきの販売が増えています。なぜ、全国的には縮小している市場で、鎌倉だけは逆の動きが起きているのでしょうか。
年賀状の歴史と現在のデータ、そして鎌倉の事例から、「あいさつ」が経済や社会とどのようにつながっているのかを考えます。

まずはクイズで考えてみよう(正解は問題をクリック)

Q. 全国で年賀はがきの発行枚数が大きく減る中でも、 鎌倉で年賀はがきの販売が伸びている主な理由として、 最も近いものはどれでしょうか?

A. 鎌倉市内の学校で「年賀状を書く授業」が必修化され、児童・生徒の購入が増えたから
B. 郵便局が地元向けに割引キャンペーンを行い、まとめ買いする家庭が増えたから
C. 駅近くの郵便局で、外国人観光客向けにデザイン年賀はがきを販売し、おみやげ需要が増えたから

→正解は「C. 駅近くの郵便局で、外国人観光客向けにデザイン年賀はがきを販売し、おみやげ需要が増えたから」です。
その理由や背景は、記事後半で解説します。

年賀状はどこから始まったのか

年賀状の起源は、奈良から平安時代に行われていた年始のあいさつにさかのぼります。当時は、新年に直接家を訪ねてあいさつするのが基本でしたが、遠方で会えない相手には手紙が使われました。平安時代の文献には、年始のあいさつ文の例も残されています。

「はがきの年賀状」が広く普及したのは明治以降です。制度や仕組みの変化で、年始のあいさつが一気に全国へ広がりました。

  • 1871年 郵便制度が開始
  • 1873年 官製はがきが導入
  • 年末に出した年賀状を元日に配達する「年賀郵便」が整備
  • 1949年 お年玉付き年賀はがきが開始
年賀状と日本郵便の収益構造

年賀状は、かつて日本郵便にとって重要な収入源でした。2010年代前半まで、年賀はがきの発行枚数は毎年30億枚を超えていました。例えば2015年用は約30億2,285万枚です。当時のはがき料金52円で単純計算すると、売上規模は約1,600億円になります。これは、同時期の郵便事業全体の売上の1割前後にあたる水準でした。

区分発行・販売の目安メモ
ピーク(2004年用)約44億枚発行枚数の最大規模
2015年用約30億2,285万枚52円換算で約1,600億円規模
2025年用約10億7,000万枚大きく縮小
2026年用約7億5,000万枚さらなる減少

この減少は郵便事業の収益にも影響し、日本郵便の決算では郵便物全体の減少とともに、年賀はがきを含む郵便収入の落ち込みが課題として挙げられています。

なぜ年賀状は減ってきたのか

年賀状離れの理由として多く挙げられているのが、デジタルで代替できるようになった点です。メールやSNS、LINEなどを使えば、費用をかけずにすぐあいさつができます。
総務省の調査でも、インターネット利用者の多くがSNSを通じて日常的に連絡を取っていることが示されています。

理由を簡単にまとめると次の3つです。

  • デジタル代替:SNSやメールで年始の連絡ができる
  • コストと手間:はがき代や印刷代が必要で準備に時間がかかる
  • 心理的負担:来たら返す必要があると感じる人がいる

企業でも、コスト削減や業務効率化を理由に年賀状をやめる動きが広がり、これが発行枚数の減少に拍車をかけています。

なぜ鎌倉では売れ続けているのか

全国的に年賀状が減る中で、鎌倉では異なる動きが見られます。鎌倉郵便局では、年賀はがきの販売枚数が2024年用で約18万枚、2025年用で約20万枚と増加しています。

背景にあるのが、訪日外国人による「おみやげ需要」です。鎌倉では、干支のイラストやキャラクター柄、江ノ島や富士山が描かれた地域限定デザインの年賀はがきが人気で、年賀状としてだけでなく「日本らしい紙製のおみやげ」として購入されています。

鎌倉郵便局で年賀はがきの売上が好調な理由として、以下が挙げられます。

  • 商品としての年賀はがき:限定デザインが選ばれる
  • 買い方の変化:観光客が数十枚をまとめ買いし、金額にして1万円分ほどになる例もある
  • 売り方の工夫:駅近の立地を生かし、販売ブースや英語の説明掲示で来店を促す

鎌倉市の観光統計では、コロナ禍後に観光客数が回復し、外国人観光案内所の利用者数は2018年度を上回っています。鎌倉郵便局では、商品配置の見直しなども行い、切手や関連商品の売上が伸びているとされています。

郵便局のネットショップより

Q. 経済学で考えると、現在の鎌倉の年賀はがきは、次のうちどの段階の商品に最も近いと考えられるでしょうか?

A. 全国で大量に消費される成長期の商品
B. 役割を変え、特定の需要に支えられる商品
C. 需要が消え、市場から退出しつつある商品

→正解は「B. 役割を変え、特定の需要に支えられる商品」です。

経済学では、商品は時間の経過とともに「成長する」「広く使われる」「役割が変わる」「市場から消える」といった変化をたどると考えられています。

年賀はがきは、かつては全国で大量に使われる年末年始の必需品でした。しかし現在は、デジタル化や企業の年賀状じまいにより、その役割は大きく変わっています。一方で鎌倉では、年賀はがきが「通信手段」ではなく、「観光地で買われる商品」や「日本文化を感じるみやげ」として選ばれています。

このように、需要が完全に消えたわけでも、全国で再び広がっているわけでもありません。使われ方や価値が変わり、特定の人や場所に支えられている段階にあると考えるのが最も近く、それが選択肢Bにあたります。

まとめ
  • 年賀状の起源は奈良から平安時代の年始あいさつ
  • 明治の郵便制度と官製はがきで全国に普及
  • かつては郵便収入の1割前後を占める重要な商品だった
  • デジタル化やコスト負担で年賀状離れが進んでいる
  • 企業の年賀状じまいが減少を加速させた
  • 鎌倉では観光需要と地域文化が販売を支えている

年賀状は、時代ごとに形を変えながら、人と人をつなぐ役割を担ってきました。直接会うあいさつから手紙、はがき、そしてデジタルへと手段は変わっています。一方で鎌倉のように、年賀状が観光商品として新しい役割を持つ例もあります。

もし年賀状が完全になくなったら、年に一度だけつながっていた人との関係はどうなるでしょうか。逆に、紙だからこそ残る価値は何でしょうか。年賀状の歴史と鎌倉の事例を手がかりに、「あいさつ」と「つながり」がこれからの社会でどのように形を変えていくのか、自分でも調べてみることが学びにつながります。