なぜ当日買えない?コンビニでクリスマスケーキが売られなくなった理由
【コンビニ】店頭で「クリスマスケーキ」を見かけなくなったのはなぜ? セブン、ローソン、ファミマに販売戦略を聞く | オトナンサー
コンビニエンスストアがクリスマスケーキの店頭販売を控えるようになった理由について、コンビニの運営会社に聞きました。
クリスマス前になると、かつてはコンビニのショーケースにホールケーキがずらりと並んでいました。ところが近年は、店頭で大量のクリスマスケーキを見る機会が減り、予約して受け取るスタイルが主流になっています。背景にあるのは、「フードロス(まだ食べられる食品が捨てられてしまうこと)」を減らす動きと、コンビニ各社が利益を守るために行っている販売戦略です。
私たちにとって身近なクリスマスケーキは、どのようにして「予約が当たり前」の商品になったのでしょうか。この変化をたどると、コンビニ経営の考え方や、社会全体の仕組みが見えてきます。
コンビニで「山積みのケーキ」を見なくなった理由
日本でクリスマスケーキが広まったのは、戦後の高度経済成長期とされています。家庭でケーキを囲むことが「豊かさ」の象徴となり、1980年代以降、コンビニ各社もクリスマスシーズンには多くのケーキを店頭に並べてきました。
しかし、その裏側には常に「売れ残り」の問題がありました。クリスマスケーキは、24日から25日までの短い期間しか売れません。賞味期限も短いため、売れなかった分は廃棄される可能性が高い商品です。廃棄されたケーキは、材料費や人件費、輸送コストを含めた「ムダなコスト」になり、結果としてフードロスにつながります。
農林水産省によると、日本の食品ロス量は年間およそ5百万トンとされています(農林水産省 2023年公表)。この中には、売れ残りなどによって生じる「事業系食品ロス」も含まれています。コンビニのクリスマスケーキも、その一因になり得る商品でした。
こうした状況を受け、コンビニ各社は「店頭に大量に並べて売る」方法から、「予約を中心にして必要な分だけ作る」方法へと方針を転換してきました。オトナンサーが2024年12月に行った取材では、セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートの各社が、店頭販売を抑え、予約販売を重視していることが紹介されています。
予約制はなぜフードロス削減につながるのか
予約販売の最大の特徴は、「どれくらい売れるか」を先に見積もれる点にあります。予約数が分かれば、その数に合わせて生産量を決められるため、売れ残りのリスクを大きく減らせます。
予約を支える仕組み(各社の例)
- ローソン
クリスマスケーキやおせち料理を予約中心で販売しています。スマートフォンのアプリから注文でき、2024年からはバーコード決済にも対応しました。注文から支払いまでの手順が簡単になり、店舗側の作業も減ります。 - ファミリーマート
2019年ごろから予約販売を強化し、早めに予約した人が割引を受けられる仕組みを導入しました。早期予約が増えるほど需要を読みやすくなり、生産計画が立てやすくなります。 - セブン‐イレブン
数量限定の商品を予約制で販売する方式を取り入れています。オンライン限定商品も用意し、特別感を出しつつ必要な数だけを生産できる形にしています。
経済の視点で見ると、予約制は「在庫リスクを小さくする仕組み」です。在庫が多すぎると売れ残りの損失が出て、少なすぎると売る機会を逃します。予約データを使うことで、ちょうどよい量に近づけやすくなり、利益を守りながらフードロスの削減にもつながります。

クリスマスに限らない フードロス対策の広がり
クリスマスケーキをめぐる変化は、コンビニだけの話ではありません。食品ロスを減らす工夫は、百貨店や飲食店、スーパーなどにも広がっています。
いま広がっている工夫例
- 百貨店
予約で生産量を合わせる 予約販売を中心にし、予約数に応じて生産量を調整します。店頭販売は少量に絞り、販売期間や数量も限定して売れ残りを抑えています。 - レストラン
席数に合わせて仕入れる クリスマスディナーを事前予約制にし、席数に合わせて食材を仕入れます。余りやすい食材の廃棄を減らしやすくなり、持ち帰り用容器を用意する店舗も見られます。 - スーパー
値引きと数量調整で廃棄を減らす 賞味期限が近い商品を割引価格で販売する「見切り販売」が定着しました。節分の恵方巻きの大量廃棄が問題になったことを受け、予約販売や数量調整を進める動きも、NHKや新聞各紙で報じられてきました。 - フードシェアリング
売れ残りを必要な人へつなぐ 売れ残りそうな食品をアプリで安く提供する仕組みも注目されています。「TABETE」などのサービスでは、売れ残ったケーキや総菜を近くの利用者に届け、廃棄を減らす流れを作っています。
なぜケーキ専門店は大きく値引きしないのか
一方で、ケーキ専門店では、クリスマス当日に大幅な値引きが行われることはあまりありません。ここには「ブランド価値」という考え方が関係しています。
高級なケーキ店にとって、クリスマスケーキは店のイメージを支える重要な商品です。もし値引きが当たり前になると、「どうせ安くなる」と考える人が増え、定価で購入する客が減る可能性があります。その結果、「特別な日のケーキ」という印象が弱まり、長期的にはブランド力の低下につながりかねません。
一方、個人経営の小さなケーキ店などでは、原材料費を回収するために、閉店前に一部の商品を値下げする場合もあります。
同じケーキでも、経営規模や客層によって選ばれる戦略は異なります。
ここには、「目先の売上」と「将来の信頼やブランド」をどう両立させるかという、企業にとって難しい判断が表れています。
まとめ
- コンビニのクリスマスケーキは店頭販売から予約中心へと移行している
- 背景には食品ロス削減と在庫リスクを減らす経営判断がある
- 予約制は需要予測を可能にし 生産量の調整をしやすくしている
- 百貨店 レストラン スーパーなどでも同様の取り組みが広がっている
- ケーキ専門店はブランド価値を守るため 大幅な値引きを控える傾向がある
- クリスマスケーキは経済や社会の課題が集まる身近な商品である
今年クリスマスケーキを選ぶとき、「どこで いつ どのように買うか」を少しだけ経済の視点で考えてみてはいかがでしょうか。予約をすることは、お店のフードロス削減に協力する行動とも言えます。当日割引の商品を選ぶことも、廃棄されるはずだった食品を活用する選択になる場合があります。
また、コンビニのアプリ予約やフードシェアリングサービスといった新しい仕組みが、私たちの行動をどのように変えているのかを観察するのも一つの学びです。もし自分が店長だったら、どのくらい仕入れ、どのタイミングで値引きをするでしょうか。クリスマスケーキをきっかけに、「在庫」「需要予測」「ブランド」という言葉を調べてみると、経済の見方が一段と広がるかもしれません。

